2.ヴィスタリア帝国の第三皇子

1/3
前へ
/137ページ
次へ

2.ヴィスタリア帝国の第三皇子

 三日後、ようやく部屋から出ることを許されたエリスは、父親からこう告げられた。 「ヴィスタリア帝国の第三皇子が結婚相手を探している。お前が嫁ぐように」と。  その言葉に、エリスは全身から血の気が引くのを感じた。  ◇  この三日間、エリスはずっと考えていた。  自分はこの後どうなるのだろう、と。  ユリウスから婚約を破棄され、家族には虐げられ、自分の味方は誰もいない。  そんな状況でこれからどうやって生きていけばいいのだろうと、いっそ死んでしまった方がいいのではないかと、何度も何度も考えた。  でもその度に、遠く離れたランデル王国に単身留学している弟シオンの顔が思い浮かび、彼女を思い留まらせた。  最後に会ったのはもう三年も前になるが、今も定期的にやり取りしている手紙の最後には必ず「早く姉さんと一緒に暮らしたい」と書いてくれる。  シオンの為にも、私は生きなければならない――そう思って、エリスはこの三日間を過ごしたのだ。    それがまさか、帝国に輿入れしろと言われるとは欠片も思っていなかった。  それも相手は、冷酷無慈悲の殺人鬼として悪名高い、第三皇子のアレクシス。 (確かあだ名は……"赤い死神"だったかしら)  元の髪色がわからないほど返り血を浴びた姿からそう呼ばれるようになったと聞いている。  噂の真偽はともかくとして、恐ろしい男であることは間違いない。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

976人が本棚に入れています
本棚に追加