2.ヴィスタリア帝国の第三皇子

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「で……ですが、お父さま。我が国のような小国の、それも王女でもないわたくしに、そのような大役が務まるとは思えません」  この屋敷に居続けたいとは思わない。この国に未練があるわけではない。  けれど、帝国に嫁ぐというのは、エリスにとってとても恐ろしいことだった。  肩を震わせるエリスに、父親は高圧的に告げる。 「お前の意見など聞いていない。これはもう決まったことだ。陛下はお前を帝国に差し出す条件でクリスティーナをユリウス殿下の新しい婚約者に据えてもよいと仰った。受け入れる他ないだろう?」 「……え? クリスティーナが……殿下と、婚約……?」 「そうだ。その上で、お前の輿入れの準備も王家で整えてくださるそうだ。これは殿下のお計らいだと聞いたぞ。まさか自分を裏切ったお前のことをここまで気にかけてくださるとは、殿下の懐の深さには実に驚かされるな」 「――!」 (ああ……。わたしは本当に、ユリウス殿下に見限られてしまったのね……)  もはや涙も出なかった。  もしかしたらユリウスが戻ってきてくれるかもと、誤解だった、すまなかったと言ってくれる未来を多少なりとも期待していたが、その可能性はたった今消えてなくなった。  全ての希望を踏みにじられたエリスには、父の言葉を受け入れる以外の選択肢が残されていなかった。  すべての言葉を呑み込んで、エリスは膝の上でぎゅっと拳を握りしめる。 「わかりました。わたくし、帝国へ嫁がせていただきます」  ――こうしてエリスは、ヴィスタリア帝国への輿入れが決まったのだった。  
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