18.自覚

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 もしや――と思った。  シオンの話をされるのか、と。  だが、エリスの口から出たのは、全く予想外の言葉だった。 「あの……、ありがとうございました」 「“ありがとうございました”?」  驚きのあまり、うっかり復唱してしまう。  まさか礼を言われるとは思わなかったからだ。  だが、よくよく考えてみれば確かに、眠ってしまった自分を運んでくれた相手に礼を言うのは、何らおかしなことではない。 「いや。そもそも、俺が君から目を放したのがいけなかった。こちらこそ、すまなかった」  そう答えると、エリスははにかむような笑みを浮かべる。 「いえ、あの、運んでくださったこともそうなのですが……」 「……?」 「ダンスのとき、動けなくなったわたくしに、殿下は『問題ない』とお言葉をかけてくださいました。あの一言に、わたくしは救われたのです。……そのお礼を、どうしても言いたくて」 「――っ」 「本当に、ありがとうございました」  嘘偽りない真っすぐな眼差しで見つめられ、アレクシスは内心とても動揺した。  自分では何気なく言ったその一言に、『救われた』などと言われても、どういう反応を取ればいいのかわからなかった。  ただ、どうしようもなく、胸が熱くなったことだけは確かだった。  結局アレクシスは「ああ」と短く答え、今度こそ部屋を出る。  そして後ろ手に扉を閉めると、そのままトンと背中を預け――口元を覆った。 (――ああ、そうか。俺は……)  気付いてしまった。エリスの笑顔を見て、気が付いてしまった。  自分は、彼女が好きなのだ――と。
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