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(そうよ。贈り物はただ、夫の義務として……それだけよ。殿下は本来、お優しい方だったというだけ)
エリスは次々に湧き上がってくる雑念を振り払い、目当ての本棚を探すことに集中する。
F607の本棚は――あった、あそこだ。
無事に本棚を見つけたエリスは、侍女に「あなたも好きなものを借りていいわよ」と伝える。
すると侍女は嬉しそうに目を輝かせ、隣の通路へと入っていった。
エリスも自分の目当ての本を探し始める。
本の並びは、出版社、レーベル、そして作家順になっているようで、目当ての作家の作品はすぐに見つかった。
(沢山あるのね。シリーズものもあるし……これはとても悩むわね)
エリスはしばらく、背表紙と一人睨めっこをする。
すると今度は、昨夜読み終えたばかりの小説の内容が思い出された。
(そう言えば、マリアンヌ様にお借りした小説のヒーローって、殿下に似ていたような気がするわ)
花売りの貧しい娘と、若くして爵位を継いだ伯爵の恋物語。
伯爵は過去に女に騙されたことから女性不信に陥っていて、けれど家のために妻を娶らなければならず、契約結婚という方法を思いつく。とは言え貴族令嬢を相手にするのは難しい。ならば、平民の女を妻に仕立て上げればいいじゃないか――というところから始まる物語で、伯爵の不愛想で無口なところがアレクシスと重なった。
(女性不信の伯爵がだんだんと花売りの娘に惹かれていって、でも素直に思いを伝えることもできなくて……というところが、とてももどかしいのよね。でも、最後は真っすぐに気持ちを伝えて……)
小説ラストの甘いシーンを思い出したエリスは、咄嗟に両手で顔を覆う。
うっかり、――そう。ほんの少しだけ、唇がにやけてしまいそうになったからだ。
すると、そのときだった。
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