朝霧探偵の事件録

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再びPCを操作して地図を開く。港の倉庫街を中心に持ってきてマウスホイールをグリグリと動かして拡大すると、倉庫とは形状の異なる建物が出てきた。細長い四角の中にはユーロトレーディング港埠頭事務所と細かな文字で書かれていた。 ここだ。十中八九。 思いの外時間を費やしてしまい、気づけばブラインドの向こうは真っ暗で、ぽつりぽつりと雨が落ちてきていた。 こちらの姿を隠すには寧ろ好都合だ。 手早く準備を整えると、探偵事務所をあとにした。 *** 離れた位置に車をつけて、倉庫の壁伝いに身を潜めながらしばらく進むと埠頭事務所の裏へと辿り着いた。目を凝らしてみると、入口は正面の一箇所のみ。黒いスーツを着たガタイのいい見張りが一人立っている。ビンゴだ。 窓はいくつかあるようだが、枠が小さいのでそこから身体をねじ込むのは上手くない。 髪から滴るしずくを振り払って、スーツの肩を濡らしていた雨粒も手で払うと、一歩、また一歩と入口への距離を詰める。横に並んだところで声をかけた。 「交代の時間だ」 「ん? もうそんな時間か……ぐぁっ」 腕時計へと視線を移した一瞬の隙をついて死角に入ると、鳩尾に手刀を決めて腕を後方へ捻り上げた。 そしてジャケットに忍ばせていた結束バンドを取り出すと、両手首を素早くバンドで括る。悶絶しているうちに、繋げて長くしたバンドを足首に八の字に回して固定した。
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