時が戻るなら

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時が戻るなら

 マックロードは暗にウララの包帯を解いてほしいと命じた。 「はァ…、あのォ」だがウララは躊躇った。  よほど傷跡を見られるのが恥ずかしいのだろう。 「どうした。どうせ整形する時は患部を見なければ処置のしようがないんだ。恥ずかしがっても仕方ないだろう」  さすがにマックロードも真剣な眼差しだ。 「ええェ、だけどそのメイさんって方は、どうなさったんですか?」  ウララは気になったのか(たず)ねた、 「ウン、メイか。メイは亡くなったよ」  マックロードはつらそうに応えた。 「え、亡くなった?」 「ああァオレの目の前でね」 「どういう事ですか。目の前で亡くなったって?」 「メイは地下アイドルで、握手会をしている真っ最中だったんだ」 「握手会?」 「そう、オレもその握手会の行列に並んでいたんだ。その時、凶行が起こった」  マックロードにとって辛い過去のようだ。 「凶行?」 「ああァ、ライブに集まった握手会の中にメイのストーカーが潜んでいて突然、凶器を出してメイを滅多刺ししたんだ」 「そんなァ」 「とっさにオレはメイを救い出すことが出来ず、彼女はオレの腕の中で息を引き取ったんだ」 「うゥ!」 「もし時が戻るなら、あのとき握手会でストーカーが凶器を出す前にオレが、この拳でそいつをぶん殴ってやりたい」  マックロードは怨めしそうに自らの拳を睨んだ。 「……」瞬間、診療室内に重苦しい沈黙が宿った。 「そのメイさんそっくりの顔に整形するんですねェ」  ウララは視線を伏せた。 「ああァ、『神の手を持つ天才外科医』と呼ばれたこのオレが必ず整形手術を成功させてみせるよ」 「ゴックン、わかりました」  ようやくウララも固唾を飲み込んで決心したようだ。  マスクを外し包帯を解いていった。 「ううゥ!」その瞬間、見習い看護師のラブリが悲鳴を飲み込んだ。  ウララの怪我の様子を見て、かすかにうめき声を上げた。    思ったよりもヒドい有り様だ。  確かに重傷と言えるだろう。
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