高瀬

1/1
前へ
/13ページ
次へ

高瀬

「実はウララの顔のキズもこの子から母親を奪ったのも、すべて私の所為なんです」  高瀬は辛い胸の内を吐露した。 「え、高瀬さんのですか?」  ラブリが不思議そうに聞き返した。  どういう事なのだろう。 「ええェ、それまで私は仕事に(かま)けて、家庭を(ないが)しろにしていたんです」 「はァそうですか」よくある話しだ。 「そして私は久々にウララの誕生日を祝おうと、この子の母親と三人で外食の約束したんです。ところが仕事が伸びてしまい、約束の時間に遅れてしまったんです。仕方なく妻はウララを連れて先にタクシーでレストランへ向かったんです。でもそれが最悪の事態を招くことに……」 「え、どうしたんですか。最悪って?」  すぐにラブリが聞き返した。 「二人の乗っていたタクシーに薬でラリった少年の運転する暴走車が突っ込んだんです!」 「えェ?」 「それが原因でタクシーは大破したんです。その事故で妻は亡くなってしまい、さらにウララは顔に大ケガを負ったんです」  高瀬の言葉に娘のウララはただうつむいて黙っていた。 「はァなるほど、じゃァ高瀬さんが仕事を切り上げ、約束通り着いていたら事故に遭わなかったと言うんですね」  ラブリが高瀬に訊いた。 「ええェ、私が約束を守っていれば、十分早く家を出ていれば。いや一分でも早く出かけていれば暴走車に遭遇することはなかったはずです。もちろん妻も亡くならなかった。そしてこの子も顔にキズを負わずに済んだんです」  それも運命なのだろうか。  まったく皮肉なものだ。  運命は。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加