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険しい岩山を超えた崖の上に、半透明の塔が建っている。これは、この世界の創造主である女神ルテリアの聖遺跡の1つだ。塔の中に入った者には聖なる力が与えられるという伝承があるものの、入口の扉は古代魔法で固く封印されている。
「さぁ、ラーシュルツァ王子、行きましょう」
「……うむ」
“勇者”の名目で俺達のパーティーを率いてきたラーシュルツァ王子は、隣の聖騎士ニキスに腰の剣を渡すと、塔に向かって歩き出した。ルテリアの塔に入るには、武器を身に付けていてはいけない決まりだ。
彼らから数歩後をパーティーの仲間――聖神官のメルカーシャ、聖剣士のガリウス、賢者のムスターク、そして魔導師の俺が付き従う。
「オーガネス、龍の鍵を」
銀色の髪のメルカーシャが、俺に視線を寄こす。塔の扉にかけられた古代魔法の封印を解くには、3本の魔法の鍵が要る。1本は王家に伝わってきた星の鍵、これはラーシュルツァ王子が首に掛けている。もう1本は、聖教会が護ってきた光の鍵、これはメルカーシャが持ってきた。そして最後の1本、龍の鍵は、数多の魔物が蠢く地下迷宮の最深部に巣くう暗黒龍が自身の角の中に収めていた。だから俺達はパーティーを組み、ダンジョンを攻略して暗黒龍を打ち倒し、龍の鍵を手に入れた。ところが、この鍵には触れる者の魔力を著しく奪うよう、暗黒龍が強い呪詛をかけていた。黒魔術に長けた魔導師のみが影響を防ぐことが出来たので、ダンジョンからこちら、俺が肌身離さず所持してきたのだ。
「ああ。王子、お気をつけて」
懐から、掌ほどの長さの黒い鍵を取り出して渡す。鍵全体を包み込むように、闇色の霧が纏わり付いている。
「うむ」
覚悟を決めた眼差しで頷くと、王子は受け取った。その途端、呪いの霧は彼の指先に絡みつき、王子は端整な顔を苦痛に歪めた。そして、全身を震わせながら先に手にしていた2本の鍵と組み合わせ、扉の鍵穴に差し込んだ。
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