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恩返し
「教授・・根津教授、ずいぶんと探したんですよ、珍しいですね教授がサウナをご利用なるなんて」
「私だって、物思いにふけることだってあるさ、特に最近はね」
「へぇーあんなに思ったことストレートに口にする教授が?またどうして?」
皆さんこの方覚えていますか? 根津教授が初出勤で利用したあの地下鉄での誤認逮捕劇。あの時、警官たちを賄賂という合理的手段で追っ払った見事なマジシャンならぬ通訳を・・そう孫悟海です。
勿論、私の専属通訳なので絶えず傍にいて有り難い時もあるが、どちらかといえば煩わしい存在になっていた。
「どうだった? 大使館・・行ってくれたんだろ?」
「行ってきましたよ」
「誰と会ってきたんだ」
「米倉大使に決まってんじゃないですか」
「それで? 私の出国ビザはOKしてくれたのかね」
「どうして教授はそんなに急ぐんですか? もう半年もすれば完成なんでしょう? そうなりゃ無罪放免、大手を振って帰国できるじゃないすか」
入国してきて地下鉄誤認逮捕があって、その時から、いやこれまでも孫の私への対応は全く変わらない。
二年半が経過した今、通常の人間なら互いの距離感が縮まり、その分幾分か秩序が乱れるものだが彼は違う、そもそもが横柄ではあるが芯は非常に繊細な男であり、私は信頼している。
この国での不安はこの男が全て解決してくれた。だから今回もサーバーのデータ持ち出しなら転売の末、日本大使館には必ず売り込みがあると見た。
なぜ日本大使館なのか? そのデーターを回析することが出来るのは研究所のリーダー根津伊織、私一人だからである。
このデーターは世界中の研究者が解読したところで全く価値の無いものと扱われるだろ。たとえヘルナンデスが見たところでそれは同じだ。
だから解析を私に依頼してくるだろう、だから日本大使館に持ち込むしかそのデーターの価値は無いって訳だ。
「それで孫・・じらすんじゃないよ!どうだった」
「教授、あなたは凄い人物ですね、この度のオングストローム半導体の膨大な試作データー、それらは既に日本大使館に寄贈されていたということです。
『残りのドライバーは製品化終了の後、根津伊織教授から受け取ってください』とのことでした」
「その盗人軍団が・・つまりテロ軍団か誰かが日本大使館に寄贈したってわけか?」
「ま、今回研究に携わった22か国で共有して欲しいといった条件ですがね」
「だから・・それってなんて名前の・・まさかヘルナンデス?」
「教授、さっきから何言ってんですか? この国の政府からじゃないですか。教授が言ったそうですね。
何でも『恩知らずの国はワシャ好かん!』って言葉を盗聴した政府が二年もの間水面下で協議していたようです。特に教授の『恩知らず』って言葉をね、すると梅下電子の梅下会長の言葉『忠誠努力して要求すべし』に結論づけられたってことです」
「なるほどね・・今度は力で人材を集め、その成果を関係国に恩返しをしたいって訳か⁉ 少しは変わったのかな?」
―完―
この作品はフィクションであり、登場する国・団体・企業・人など名称のすべては架空のものであり、実在するものではありません。
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