誤認逮捕

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誤認逮捕

「スーマイガネ・コウドゥゴ」(ご同行願います) 「えっ、ちょっと何するんですか⁉」 「ファイチィン」(大人しくしなさい)  私は地下鉄の出口階段の番号を携帯で撮影していただけだ。帰り道に迷わない為だった。ことの始まりはその撮影後、間もなく起こった。 警官らしき二人の男に脇を固められたかと思うと、有無を言わさず地下鉄構内の鉄道事務所に連行された。 この国のスパイアレルギーは世界でも知られているところだが弱者な国には異常なまでエスカレートしてくる。  だから公安機関でも警察組織の現場じゃ誤認逮捕も許されるほどヒステリックに陥っている。 「手を放せ! 私は何も悪いことはしていない! 出口階段の写真を撮っただけじゃないか。ここにじゃ日本語の分かる奴はいないのか⁉ 通訳を呼んでくれ、こんなの人権侵害だ、訴えてやる!」 「フィンガナイ・ゴンゴーハビエイフォー」(これ以上騒ぐと公務執行妨害で逮捕するぞ!)  この国で逮捕される日本人はぼぼ自国には帰れない。これまでも何人もの日本人がそうだった。 私は逃げようと力の限り抵抗し、そしてもがいた。 勿論、事務所内で業務していたに数人の鉄道職員たちにはとんだとばっちりでパニック状態になっていた。 「離せ! わしゃお前らの言いなりには成らんぞ! 通訳を呼べ! だからこんな国に来るの嫌だって言ったんだ! 俺はこの国のために来てやってんだぞ!」  私は某国国営企業からの招待で昨日空港に到着した。 招待といっても半ば脅迫だ、『息子の借金を帳消しにしてやるからとか』の交換条件で嫌々やって来たのである。それも仕掛けられた罠に、まんまと掛かった馬鹿息子のためにだ。  勿論、当日は招待企業の担当者数人が空港まで出迎えてくれていた。 その後単身赴任者用のマンションに案内されたりで至れり尽くせりの対応だった。  だが今日は自分一人で地下鉄に乗って通勤してみたかった。そのように私からわざわざ願い出たのである。 国際地図アプリに書き加えられたこの国の通勤アプリとやらの精度がどれほどのものなのかが知りたかったからだ。具体的には地図上の各ポイントのデーターと現場の現実を突合せることでほぼ推察できてしまう。 もしかしてこのような『個人の思考』でさえ、某局には織り込み済みなのかもしれない・・そりゃあまりにも買いかぶりすぎだろって、なら、何かがまずかったのだろうか。
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