専属通訳

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専属通訳

「訴えるって? 誰を訴えるんですか? まさか主席だなんて・・そんなのよしてくださいよ」 「誰だ!・・きっ、君は誰だ! 両腕を束縛されている私にぶしつけな⁉」 「あなた今、私を呼ばれましたよね?『通訳を呼べー!』って大声で、だから私は急いでやって来たってわけ⁉ そう・・私がその通訳なんです」  通訳を名乗るこの男、日本語は流暢だが日本人ではない。名札の文字がそれを物語っている。身長は180センチほどで見るからにスマートだ、憎いがやけにスーツが似合う。そうか⁉ マッチョな胸板がそう見えるのかもしれない。(今はスーツの話をしている場合じゃないだろ、もっと自分ファーストにならなきゃ)  彼はそのスーツの内ポケットに手をやると、まるでマジシャンのように一枚のカードを取り出した。 (ありゃ名刺じゃないか?・・でも私にじゃない、だって私の両腕は依然自由が奪われているからだ)  彼は警官らしき二人に何やら話し始めた、そして丁寧にお辞儀をしながらそのカード・・いや名刺を右側の警官に手渡した。 その後、ようやく私の両腕が解放されるのを見届けると、通訳と語る彼が私に近づき、今度は右の内ポケットからカードを取り出した。 日本語表記の名刺だった。私用に用意していたのだろうか? 「孫悟海です。国営企業からの依頼であなたの通訳とボディーガードを担当することになりました。よろしくお願いします」 (孫悟空じゃないんだ、そうか、ボディーガードも兼ねて、なんだ?もしかして私のマンションからず~っと・・) 「君って、私の後を着けてたのか⁉ 出来りゃモット早くに登場して欲しかったよな、こんなにパニクッテからじゃ、無罪放免なんて難しいんじゃない⁉ とにかくこの連中に私は妖しものじゃないって説明してよ・・ね!」 「分かりました」  孫は二人が並ぶ警官の中央に割込むと何やら小声で呟き両の手で二人の肩をなだめる様にして事務所の外に連れ出した。 これで彼らの会話も聞こえなくなった。駅事務所もようやくパニックが収まったようだ。でもガラス越しの向こうの動きが何となく気になる。  孫は再びスーツの内ポケットに右手を入れたかと思うと、素早くまたカードを取り出した・・えっ、ありゃお札じゃないか⁉ カードにしたら大きすぎるし腰もない。なんと裸のまま二人に手渡している。(こんなの公の場でもまかり通るのかね?) しばらくすると警官らしき二人は孫から遠のいていった。 孫が事務所に戻ってくるやいなや、 「やーよかった!彼らは誤認逮捕だろうと何だろと検挙手当てが目当てなんだから。 なにせ警察官の給料って安いのでね。だからそれを上回る現ナマのほうが、どんな言い訳よりも彼らには効果的なんです。 逮捕されたりすると一年は留置されちゃいますからね、それじゃこちらとすれば根津教授を招待した意味が無くなっちゃいますからね」
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