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恩を仇で返す
一方、世界中からODA援助を受けながら、今や世界の工場と称されるほどの経済大国に発展した国がある。だがその要因に自ら蓋をしてしまった今、その経済力や軍事力に物を言わせ、世界の二分を意図し、まずは途上国から実行支配を始めている。
私とヘルナンデスはこのような話題を夜が明けるまで、そして酔いつぶれるまで話したことがある。きっとその際『そんな恩知らずの国はワシャ好かん!』とでも言ったのだろう。私は覚えてはいないがヘルナンデスがそう云うならそうだろう。
「『恩知らずの国はワシャ好かん!』ってそんなこと私が言ったの? Mrヘルナンデス、君はよく覚えていたよね。話した私が忘れてしまったものを。
そうだね、昨日も嫌な思いをしたんだが、君が覚えていたように、ここは少し・・いやかなりやばい国かもしれないよね」
私はここに集まってくれた二十人余りの研究者たちに対面しているわけで、ヘルナンデスとの過去の話題など、興味どころか煩わしいと思う者もいるだろうと察知した。
「皆さんには何のことかよく分からないだろうから、少しだけ話すとしよう。
実は数年前、そこに居るヘルナンデス君と話し込んでいるうちに浮かび上がってきた課題が山ほどあってね・・彼との続きはこのセッションを終えたときにでもゆっくりと話すとし、プライベートはこの辺にしておきます。
みんなにはオングストロームに関しての質問を期待してるよ。
それじゃ皆さん今日からよろしくね」
私はすべて日本語でスピーチした。私の背後には大型ディスプレーが設けられ、英語は勿論、五か国語に翻訳された文字列が表記されていた。
私にはマイクロフォンなんて持たされてもいない、なのにどうして自動翻訳が出来たんだろう。目の前のレクチャテーブルにもマイクロフォンのような器具など目視できなかった。
なるほど、この部屋では立ち位置を選ばず盗聴されていると考えるべきだ。
こりゃ手ごわいぞ! 表に出れば警察官が網を張り、聖地ともいえる学者の研究室ではカメラや盗聴器が監視を? 今じゃ顔認証で誰がどのように行動したかの歩行履歴までもがデーター化される。もう勘弁してほしいよね。
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