データーが消えた

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データーが消えた

 あれから二年半が経過、研究は順調に進み、世界初のナノを超えるオングストローム単位の半導体が試作され、今後は最終目的の製品化を目指し研究はいよいよ終盤を迎えていた。  試作が形成した瞬間には研究者の多くは当然のように歓喜した。 研究の成果としての喜びだけじゃないようだ。彼らも私とよく似た境遇のようで、半ば強制で連れて来られている。それもあと半年でそれぞれの国へ帰国できるかと歓喜していたのである。 あまりの嬉しさに私にハグを求めたのはヘルナンデスだった。 「根津教授、コノブンダトあと二か月で製品化デキソウですね」 「そんな感じだがね・・喜ぶのはまだ早いかもな?・・」 「why? 試作デキテル、製品化もアトスコシどうして嬉しくナイノデスカ?」 「だって最近の私たちって、まるで刑務所に収監されている囚人のような気がしないか⁉ 言っとくが私は実際に収監されたことなんてない。  たえず監視されてるなんて・・とにかく何かヤバい!」 「でもカイシャあんなに喜ん・・デタ・・ナノニドウシテ?」  私はこう考えた、このプログラムを立ち上げた初期段階では通常の・・いや、それ以上の研究優先の環境を提供してくれていた。盗聴や監視カメラ以外はね! だがある日を境に会社役員の人事が総入れ替えされた。どうして総入れ替えなんだ、これじゃ過去の経緯を語れる者がいなくなる。だがその経緯こそがこれからの経営には邪魔になると判断した組織が現れたとすれば。 だめだ、このままだとこのプロジェクトは完成を目前にして頓挫するかもしれない。  危惧した私はこれまで蓄積してきた実証データーだけでも、とバックアップを試みた。 だが遅かったようだ、既にこの研究所のサーバーは空っぽになっていたからだ。 「そう、立ち上げ当初の役員さんたちは確かに喜んでくれていた、でもそれが公開されたあの日、公開が気に障ったのか政府から圧力が加わったみたいなんだ。その後、役員の総入れ替えがあったのを覚えているだろう?」 「みんなシッテルヨ、よく差し入れくれたジョージも郭もイナクナッテシマッタシ・・」 「だろう⁉ どうやらあの日を境に我々が蓄積してきた実証データーがこの社のサーバーから消え何処かのクラウドに移行したみたいなんだ。 「教授、それはマズイヨ!」 「でも我々研究者の頭の中のデーターはまだ健在だがね・・」 「分かった教授! 今度はワレワレの頭脳からデーターを消去するもりだって言いたいんでしょ⁉」 「そんなめんどくさいことしないと思うよ! 奴らは誰に憚(はばか)るでもなく主席ご用達の国営企業にまで圧力をかけるような荒っぽい連中だよ」 「モシモその連中がセイフの機関ダトスレバ・・」 「逮捕・裁判で終身刑間違いなしだよね」
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