遠タクシー

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 鳥取空港に着いたとき、俺は2日間の徹夜で最悪のコンディションだった。  これから取り引き先に行き、契約書を作成して夕方の便で東京に帰らないと、我が社は倒産する。  空港正面にいたタクシーに倒れ込むように乗り、最後の力を振り絞る。 「羽合(はわい)まで…… 行き方は任せる、わからなかったらナビを使って。近くなったら起こしてくれ、その先はそのとき……」  運転手にそう告げたあと、意識が遠のいた。  俺が目覚めたとき、車は停まっていた。エンジン音も聞こえない。しかし、緩やかな揺れを感じる。  窓の外を見るとどこか駐車場のような…… 「どこだ、ここは?」  運転手がナビを指さして答える。 「今は小笠原沖ですね。お客さん運がいい。フェリーにギリギリ間に合いました。ハワイまでは、あと7日ありますから、近くなったら起こしますので、ごゆっくりお休みください」  (了)
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