失業

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 5人いれば、事情はそれぞれだ。  可奈子姉さんと弥生ちゃんは、彼氏のところに避難すると言った。  智美ちゃんと知佳ちゃんは、とりあえず実家に帰ると言った。  私は、まだ未定だと言った。 「大丈夫?」  可奈子姉さんは不安気に尋ねたが、私は曖昧(あいまい)に笑うしかなかった。  彼氏はいないし、実家にも帰れない。  正直なところ、詰んだ。  あと10日でどうにかするしかない。  だけどどうやって?  その夜、可奈子姉さんの部屋で、5人で夕飯を共にした。  誰も言わないけど、皆で一緒にご飯を食べるのは、多分これが最後だ。  有給の期間は、引越しや求職活動など、それぞれ自分のことで精一杯になる。  しんみりした。 「仕事、キツイこともあったけど、皆がいたからなんとか頑張れた。ありがとう」  最年少の智美ちゃんが、目に涙をためながらつぶやいた。 「とにかくこうなったからには、皆元気で頑張ろう。道は分かれるけど、元気でいればまた会える」  可奈子姉さんは気丈だった。  その言葉には全く信憑性(しんぴょうせい)はなかったけど、それを言っても仕方がない。 「そうですよね。元気だったらまた会える。また会いましょうね」  私の言葉で、誰からともなく乾杯した。  結論から言うと、あの夜以降、5人で集まる機会はなかった。
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