23人が本棚に入れています
本棚に追加
食堂のおじちゃんとおばちゃん
次の日から、職探しと並行して引越しの準備を始めた。
2年ちょっと暮らした社宅は、それなりに物が増えていて、とにかく捨てる作業に没頭した。
引越しと言っても、あと10日ではまともな引越し先は見つからないに違いない。荷物は最低限しか持って行けない。ほとんど全て捨てるしかない。
家具や家電はもともとあったものだから、捨てなくて済むのが幸いだった。
職安に行ってみる。
そうだろうとは思ったが、職はない。
よほど特殊な資格がいるもの以外は、アルバイトやパートだ。それだって、そんなに数があるわけではない。それでは一人暮らしを支える収入は得られない。
不動産屋も覗いたが、職場も決まっていないのに、部屋を借りられない。職なしでは貸してもらえない。
詰んだ。途方に暮れた。
貯蓄も確認する。そんなにはない。今すぐ困ることはないが、頼りになるほどはない。
とにかく職だ。職探しだ。
だけどどうやって?
考えるのも疲れて、物を捨てるのにも疲れて、夕飯を食べに外に出る。
工場からほど近い、学生さんがよく利用する食堂。安くて美味しくて量が多くて、仕事帰りによく寄った。
初老のご夫婦が経営している。
調理場は旦那さん、お運びは奥さん。
顔を覚えてもらって、可愛がってもらった。
おじちゃん、おばちゃん、と呼ばせてもらって、葉月ちゃん、と呼んでもらった。
故郷を離れて就職した私には、その温かい感じが、とても慰めになっていた。
混む時間ではなかったからすぐに座れた。
注文をとったおばちゃんが、
「葉月ちゃん、どうしたの?元気ないね」
心配してくれた。
私は泣かないように気をつけながら、
「うん。実はリストラにあって、仕事がなくなったの。社員寮も出なくちゃならなくて、困っちゃって」
素直に打ち明けた。
最初のコメントを投稿しよう!