食堂のおじちゃんとおばちゃん

1/2
前へ
/210ページ
次へ

食堂のおじちゃんとおばちゃん

 次の日から、職探しと並行して引越しの準備を始めた。  2年ちょっと暮らした社宅は、それなりに物が増えていて、とにかく捨てる作業に没頭した。  引越しと言っても、あと10日ではまともな引越し先は見つからないに違いない。荷物は最低限しか持って行けない。ほとんど全て捨てるしかない。 家具や家電はもともとあったものだから、捨てなくて済むのが幸いだった。  職安に行ってみる。  そうだろうとは思ったが、職はない。  よほど特殊な資格がいるもの以外は、アルバイトやパートだ。それだって、そんなに数があるわけではない。それでは一人暮らしを支える収入は得られない。  不動産屋も覗いたが、職場も決まっていないのに、部屋を借りられない。職なしでは貸してもらえない。  詰んだ。途方に暮れた。  貯蓄も確認する。そんなにはない。今すぐ困ることはないが、頼りになるほどはない。  とにかく職だ。職探しだ。  だけどどうやって?  考えるのも疲れて、物を捨てるのにも疲れて、夕飯を食べに外に出る。  工場からほど近い、学生さんがよく利用する食堂。安くて美味しくて量が多くて、仕事帰りによく寄った。  初老のご夫婦が経営している。  調理場は旦那さん、お運びは奥さん。  顔を覚えてもらって、可愛がってもらった。  おじちゃん、おばちゃん、と呼ばせてもらって、葉月ちゃん、と呼んでもらった。  故郷を離れて就職した私には、その温かい感じが、とても慰めになっていた。  混む時間ではなかったからすぐに座れた。  注文をとったおばちゃんが、 「葉月(はづき)ちゃん、どうしたの?元気ないね」 心配してくれた。  私は泣かないように気をつけながら、 「うん。実はリストラにあって、仕事がなくなったの。社員寮も出なくちゃならなくて、困っちゃって」 素直に打ち明けた。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加