佐谷(さたに)

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 今日ラストの僕らはこれから店内の掃除を終えて店仕舞いする。最後のカップルが帰り、由夏さんが空の皿やカップを引いてきた。 「何だそれは」  オーナーは目ざとく黒の挟焼きの皿を見つけた。由夏さんの顔が引き攣る。 「僕が......」  弁解する前に、黒い皿はオーナーによって床に激しく投げられてガシャンと割れた。それはもう木っ端微塵に。  僕も由夏さんも、なにも言えずに呆然と突っ立って、床に散らばる黒い破片を見つめていた。 「俺の店で好き勝手するな!」 「す、すみません!」  僕が悪い。最初から許可などもらえないと分かっていても、せめて聞くのが筋だった。 「見本品はお前が作っておけ。明日の朝イチで確認に来るからな」  オーナーは吐き捨て、すぐに帰り支度した。 「うまくできてなければクビだ!」  怒鳴り声の後、従業員用の扉が閉まった。重い沈黙の中、まだ止めていなかった軽やかなBGMが響く。 「ごめん、佐谷君」 「由夏さんのせいじゃないですよ。由夏さんは親御さんのこともあるし、もう帰って大丈夫ですから」 「でも」  泣きそうな由夏さんに背を向け、すぐに足元の皿を片付ける。愛情と信念の塊がこんな風に割れて見ていられない。本当は若き陶芸家に申し訳なくて、僕のほうが涙が溢れそうだった。そうならないように、一度、深呼吸する。 「うまく作れば、認められるチャンスかもしれないし!」  拳を高く挙げて「ピンチをチャンスに!」と笑って見せると、由夏さんも少し笑ってくれた。 「本当に大丈夫なのね」 「はい」  本当は独りぼっちは嫌だった。
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