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星空ケーキ
「神奈川から受注が入ったって?」
椿季に聞かれ、私は下唇を噛みながら頷いた。そうしないと口元がにやけてしまいそうで。
「ネットで見たよ。『星空ケーキ』。澪のお皿に乗ってるんだよね! 超キレイ」
椿季が見せてくれたスマホの画面には、噂のケーキが表示されていた。
先日、洋菓子店「à tomber par terre (ア トンベ パーテー)」から甲窯にお取り寄せの可否を尋ねるメールが直接届いた。
挟町の陶磁器を販売するのは通常『商社』を通すため、叔母は早速そちらに話をしていた。
「あの時の人よね。澪のお皿買ってくれた」
「そうなんよ」
「パティシエだったんやねえ。うちにもそのケーキ卸してほしいわ」
椿季と少し雑談してから、私は一ノ倉を出た。ポケットの財布の中に佐谷さんの名刺を入れている。そこにはメールアドレスも電話番号も書いてある。
お礼くらい、言った方がいいんじゃない。連絡を取る口実は十分にある。スマホを出そうとし、でも、いつものように突き上げてくる衝動をグッと抑えた。
今日は釉薬の勉強のために、横井士さんの所に行くんだ。浮ついてなんかいられない。空の手を拳にして、私は愛車の所へ大股で歩いた。
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