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夜空を見上げたけど、実家のようには星が見えない。
「やっぱり、黒い所は普通、見ないよなあ」
あの若い陶器師の言葉を思い出す。
『星空ケーキ』はオーナーのアドバイスと味見を何度か繰り返してOKをもらい、話題になって雑誌にも載った。
今では、お客様からのリクエストがあれば、黒い皿にホワイトチョコのペンでメッセージを書いたりしてカフェで出している。
君のおかげで僕は少しの自信を持って歩んでいる。そのことを伝えたかったけれど、考えたら自分の名刺を渡しただけで、相手の連絡先を聞いていなかった。
生温かい空気が重い。でも足取りは軽かった。たった一つの成功。ただの始まりではあるけれど、僕の意識は確かに変わった。
「黒は『見えない』って、了承してる色、か」
呟いた言葉は雑踏に消えた。もう一つくらい、敢えて『黒を活かす』ケーキを作ったら、それを引っ提げてまた甲窯に行こう。
〈おわり〉
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