澪(みお)

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(よろい)窯です〜」  裏口から遠慮がちに入ると、お昼過ぎの店内はまだ席が埋まっていたものの、ピーク時よりずいぶん落ち着いているようだった。 「澪、お疲れ」  洗い物の手を止めて応対してくれたのは、高校の時のクラスメイトの椿季(つばき)。同じような作務衣でも、給仕用のそれは華やかな模様があしらわれた黄色の着物。お化粧もバッチリだ。対してぼろぼろの自分に、さすがに羞恥を感じた。  卒業から四年経ち、町に残っている同級生は僅かだった。ここに飛び込んだ私とは違い、ほとんどは散り散りになって夢を追っている。 「納品に来たよ」 「ありがと。そっちのテーブルに置いといて」  椿季に言われた通りにしていると、オープンキッチンの端にあるレジに、客の一人が会計に来た。 「デザートのお皿を買いたいんですが、どこの窯元に行けばいいですか」  ここ一ノ倉では、料理を提供する際、挟町で焼かれた陶磁器を使う。観光客の中には、その器が気に入って、彼のように窯元を紹介してほしいという人がいた。私もご指名いただきたいと口を尖らせた矢先...... 「それ、その子が作ったんですよ!」  椿季の明るい声に弾かれ、パッと振り返って彼を見た。相手も同じように私を見ている。その手にはしっかりと黒釉(こくゆう)を施した私の皿。  彼は大きな目を見開いた。年頃は同じくらいか少し上に見えた。170センチある私と同じくらいの目線。 「驚いたな」  彼が笑うと、茶色の柔らかそうな髪が少し揺れた。 「厳ついオッサンが作ったものだと思った」 「ですよね! その子、真っ黒な器ばっかり焼くんですよ」 「違う」  私はカッとなって椿季の言葉を即座に否定した。笑った椿季の顔が一瞬で固まるのがやけにはっきり見える。 「真っ黒ばっかりじゃないよ。黒にもいろんな表情があって......」 「ごめんごめん、そうだったね」  椿季は周りの視線を気にして、なだめるように言った。その言い方が却って癪に触る。唇を真一文字に結んで俯いていると、彼は気にする様子もなく、「じゃあ」と話しかけてきた。 「窯元に、連れて行ってもらえますか」
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