澪(みお)

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 私のカブの後ろを、軽自動車がゆっくり着いて走る。いつもよりシャキッとした背筋で、自分の作品を選んでくれた人を、敷地内の工房とは別の建物に案内した。 「いらっしゃいませ」と店番の叔母が声をかけた。男性客の後ろから、戸を閉じた私が現れると「あら」と少し驚いた後、案内不要と思ったのか、椅子に座り直してしまった。 「これが君の作品集ですね」  棚の端にちょこんと陳列された黒いゾーン。  大小さまざま。艶があるものやザラついた表面のものもあるけれど、全て黒の器だった。 「黒にこだわるのは?」  初対面の人は苦手だ。肩を縮こませたまま、でも勇気を出して答えた。 「黒は、『見えない』って、みんな了承している色だと思います」  視線の端で、叔母が小さく微笑むのが見えた。これは叔父の教え。料理より目立ってはいけないと。冷房が効いているのに、額に緊張の汗が滲む。 「黒は、他を引き立てるのが上手な色です。器の場合は、料理が主役なので」  彼は、手元の皿に視線を移してしばらく黙った。 「......なるほど」  それだけ言って、深い溜め息を吐いた。沈黙の中、やっと何とか笑っている感じ。  輝きを抑えた皿。彼がその表面を見つめていると、叔母が「よろしければ」と(よろい)窯で焼いた湯呑みにお茶を淹れてきてくれた。
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