澪(みお)

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 それからしばらくして、当時、挟町の町長が叔父の窯のファンだったこともあり、私たち一家を含めた町への支援の一環で、挟町全ての窯元から器が届いた。  それは、いつか行った陶器市みたいだった。市役所の多目的ホールに所狭しと並んだ器の数々。訪問者は無償で器を受け取った。私の家族は最初から最後まで会場にいて、様子を見守った。  希望の柄や大きさのものが必ずしも受け取れなかったかもしれない。私がもらったのは、小振りのご飯茶碗ひとつだけ。みんな、他の人を思い遣って、少なめに受け取っていた。 『これでまた、ご飯が美味しく食べられるわぁ』  人もまばらになり、器も少しになって1箇所に集められた頃。一枚だけ、小さな器をもらったおばあちゃんが、一人しみじみと呟いた。私は帰っていくその背中に、熱い何かが湧き上がるのを感じた。もっと持っていってほしいと思った。 『叔父さんとこ、行きたい』  両親も、受け入れ先の叔父さんたちも、私が長崎に引っ越すことを快く許可してくれた。それで地元(挟町)の高校を受験した。 「澪ちゃんのおかげで、あの人も楽しそうだけどね。うちの窯を継ぐ必要(こた)ないからね」 「そんなこと言わんでよ。私はここが好きなんやから」  叔母と作業場へ戻る。私もあのおばあちゃんみたいな人の笑顔を支える器が作りたい。佐谷さんのケーキも、引き立てることができればと願った。
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