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佐谷(さたに)
皿を100円均一以外で買うのは初めてだった。買ったばかりの黒い皿を手に取り、どんなケーキを乗せようかと思案する。
食器は複数枚、揃いのものが必要な気がした。横浜では1Kの部屋で、とても4人も入らないけど。
真っ黒な長い髪を後ろで一つに結んだ若い匠。吊り上がった目に宿る熱意が、職人の目だった。見せかけだけの作務衣より、土に汚れた着衣が格好良かった。
「僕もコックコートの時は、カッコよく見えるのかな」
*****
「ごゆっくりどうぞ」
また忙しい毎日が始まる。
横浜の沿線沿いにある洋菓子店、「à tomber par terre (ア トンベ パーテー)」。広い店内は半分がカフェになっている。裏で製造担当の僕らは7時から16時までせっせとスイーツを作り続ける。
僕は自主練で残った後に、時々、人手不足のため、閉店の21時まで接客販売を手伝っていた。お客さんの美味しそうな顔を見るのが好きだから、全然苦にはならない。
「おばあちゃんとお別れしたんでしょ」
接客担当の由夏さんが、僕の顔を覗き込んだ。色っぽさにドキッと心臓が跳ねる。
「大丈夫だった?」
面倒見の良い由夏さんは僕の今回の帰郷の理由を知っている、少数のスタッフの一人。僕がおばあちゃんっ子だったことも知っている。
「泣きました」
「だろうね。ヨシヨシ」
実際に頭を撫でることはできないので、声だけで撫でる真似をする。
おばあちゃんはいっぱいいる僕ら孫たちに、毎日食べきれないほどおやつを作ってくれた。僕は特に、ふわふわの白玉饅頭が好きだった。中には舌触りのいいこし餡。
たくさん食べたかったので、子供ながらに手伝うようになった。それがお菓子作り人生の始まり。
甘いものを食べる喜び。誰かに美味しいものを作る喜び。それはおばあちゃんが教えてくれた。
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