雨上がり、君想う。

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 *** 『こんにちは、タロさん。  昨日は心配をさせてしまってすみません。私は大丈夫です。  確かに、最近は雨のせいで地盤が緩んで、建物が倒壊して閉じ込められてしまう人もいるようですね。  または、建物は無事だけれど、周囲が水浸しになってまったく外に出られなくなってしまい、孤立してしまうという人も。  確かに、私が今住んでいるエリアはやや孤立しています。でも、まだ頑張ればどうにか近くのお店に食糧を買いに行くこともできるようです。近所に住んでいる人達は、雨脚が弱くなったタイミングを見計らってどうにか外に出ているみたいですね。流石に外に行けるのは元気な若者ばかりで、子供や老人は家の中に閉じこもりきりになってしまっているようですが。  私が外に出られないのは、少し事情が違っています。  私は、雨に濡れることができないんです。体質上のものだと思って頂いてかまいません。  だからずっとこの部屋にこもりきりです。最後に外に出たのは五月のことでした。だからあまりにも寂しくて、ついつい連絡をいれてしまったのです。ネットの海の中、あなたのメールアドレスを見つけられたことは僥倖でした。  もうすぐ七月ですね。  七月といえば、七夕というお祭りがあると聞いたことがあります。短冊を吊るせば、空のお星さまが願いを叶えてくれるのでしたっけ。大昔、この国がまだ日本と呼ばれていたころは、みんなが笹に短冊を吊るしてお祈りしたのだとか。  その頃の人々は、まさか数百年後に世界がこんなことになるなんて思ってもみなかったことでしょう。  この星は、緩やかですが少しずつ、水の中に沈んでいっていると聞いています。人類がどれほど頑張って大地を補強しても、雨が降り続ける以上いつかはそうなってしまうのでしょう。いつかそうなって、この建物の中にまで水が入り込んできた時。私自身も沈んで水底に閉じ込められてしまった時、全てが終わってしまうのだと思います。  その前に、貴方という話し相手に出会えて良かった。  できれば少しでも長く、貴方とお話出来たら嬉しいです。よければ私のことより、もっともっと貴方のお話を聞かせてほしい。  お返事、お待ちしております。』
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加