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雨上がり、君想う。
『どなたかいらっしゃいませんか。寂しいので、メールでお話してほしいです。私は名前をレイラと申します。』
僕のところにそんなメールが来たのは、六月のことだった。
仕事をしようとパソコンを開いたところで、たまたまそのメールが来ているのを発見したのである。
アドレスは、よくあるフリーメール。
どなたか、なんて言っているのが非常に怪しい。すわ、新たな出会い系か、迷惑メールか。当然僕の名前も書いていないし、最初はスルーしようと思ったのだ。
返信ボタンを押したのは単純に、僕も僕で暇だったからに他ならない。
『レイラさんこんにちは、お話するくらいなら構いませんよ、どうぞ。僕も暇なので。僕のことは、タロとお呼びください』
タロ。
大昔、この国でありふれた名前だったという“太郎”をもじったものだ。当然本名ではない。得体のしれない人間に、自分の本当の名前を明かしてやるほどネットリテラシーが低いつもりもないのだ。
しとしとしとしと。窓の外では、相変わらず雨が降り続いている。
この世界にひたすら雨が降るようになってから何百年が過ぎただろう。人々は大地をひたすら固め、雨を海に流しつつ土壌が汚染されていかないような仕組みを作り、さらに防水対策が万全の家を建てることで耐え忍ぶようになっていった。
幸い、雨は一年中降り続くわけではない。十二月から二月には雪に変わり、三月頃になれば溶けて日差しを拝むことができる。今この世界で、太陽をくっきりみられるのは三月から五月半ばの短い期間だけなのだ。それ以外の季節は、人工太陽を使うことでどうにか植物を栽培し、人々の食糧を確保している状態だった。
何故雨が降るようになってしまったのかはわからない。ただこの百年で、屋外でやるような仕事や活動のほとんどが出来なくなってしまったのは事実だ。
僕も僕で、国家公認の探検家なんてものをやっていながら、一年のほとんどは部屋の中で過ごしている。僕の代わりに世界を調べてくれるドローンを、防水対策万全の部屋の中で操作しながら。
――雨は、あんま好きじゃないんだよな。
できればもっともっと、外に出て自分の足で未知の世界を探検してみたい。
しかし雨が降っている時期は土砂災害や洪水の危険が高い地域が多く、極めて限られた場所しか出向くことができないのだ。しかも、大きな傘と雨合羽が必須装備になってしまう上、視界も悪いときている。雨に当たっても死ぬことがないが、雨に流されれば人は死ぬのだ。初期装備が過剰に重くなった状態で、自由に外に探検になど行けるはずもないのだった。
だから僕は、雨が好きじゃない。
ネットの向こうにいる“レイラ”に返すと、彼女もこう返事をしてきたのだった。
『まったくです。私も雨は好きではありません。何故なら、雨が降っていると外に出られないからです』
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