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「オヤツよ」
階下から、母さんが呼ぶ。
共働きが珍しくない時代ではあるけど。
俺の母さんは、専業主婦として家事を熟している。
家族の在り方は様々ある。
考えかたも色々ある。
俺は、母さんがいてくれるこの家に安心感を与えてもらっているんだ。
反抗期?
そりゃ、ちょっとはあったかもしれない。
例えば、宿題のこと言われてうるせぇなぁとか。
けど、家の掃除とか食事つくりとか、買い物とか。
一日中家で働いてくれてるんだよ?
反抗する理由がないだろう。
「……お母さん」
「なぁに?リョウくん」
「お兄ちゃんだけ、何でおせんべいなの?」
饅頭を頬張りながら、小さな弟が聞く。
「だって、お兄ちゃん……お饅頭が食べられないんだもの」
そう、俺は饅頭が食べられない。
餡子が嫌いというわけじゃない。
餅が元々苦手なのだ。
小さな頃から、餅を詰まらせる老人のニュースが年末年始に流れている。
それを聞いているうち、怖くなってしまった。
だから、俺の前には饅頭が置かれない。
「そうかあ、おいしいのに……」
「リョウも、気をつけて食べろよ」
家族が美味しいと食べているのを見ると、微笑ましくはなる。
ただ、やっぱり食べたいという気持ちにはなれない。
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