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胸の内
「中島さん、ちょっと聞きたいんだけど…」
話したことのない他のクラスの女の子3人組に、突然声をかけられた。
「はい?なんですか?」
そう聞く梨花に、3人はお互いの顔をチラチラと見合わせた後、
「松田健人君とは、付き合ってるの…?」
と、聞いてきた。
その言葉を聞いた梨花は、
「付き合ってないです。健人と仲良くなりたいなら、LAYERのマナトさんが好きだと言ってみたら良いかと…」
そんな梨花の言葉を聞いて、嬉しそうにお礼を言って去っていく彼女達を見送りながら、
「…なんか、悪い事した気分…」
と、彼女達のこの後の展開に、梨花は申し訳なくも思った。
翌日の朝、いつも通りに健人を怒鳴りながら起こして、健人の朝御飯の支度をしていると、ちょっと不満そうな顔をした健人がダイニングへと現れた。
「何?」
と、梨花が問いかけると、
「イヤさぁ、LAYERのファンだって子がさぁ、昨日声かけてきたんだけど、僕…、嬉しくて嬉しくて、思わず『まじで!?僕ね、マナトさん推しなんだよ!あの声痺れるよね〜!あっ、シングル曲動画見た?もうさぁ、踊りもさぁ、こう、手とかの角度?計算されすぎてて、マジヤバい!!クールに見せかけての可愛い笑顔とか、もう毎日見てられる!君もそう〜?』って聞いたら、黙って首を横に振ってそのまま帰っちゃった…。なんだったんだろうね…?マナトさんのファンじゃ無かったのかな…?」
そうボヤく健人に、
「…さあ?そんなことより、遅刻するから早く食べなよ」
そう言った後、梨花は健人の家を出た。
『そうなるってさ、わかってたよ…』
玄関を出て、空を見上げて心の中で呟いた。
『私が…、私が好きでも、無理だよね』
返事のない問いかけを心の中でしてみる。
わかってる。
わかってるんだ。
健人に思いは届かない事は…。
どうしたら、諦められるかな…。
きっと、無理だろうな…。
私は、きっと、ずっとこのままなんだろうな…。
昨日の3人組の顔が浮かぶ。
『早く諦められて…、羨ましいな…』
梨花の心の声は、誰にも届かなかった。
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