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咲良のお願い事
「健ちゃん!」
松田家の玄関で咲良が声を掛けると、健人が玄関のドアを開けて咲良を家の中へ招き入れた。
「健ちゃんにお話があるの」
真面目な顔で、健人の顔を見つめる咲良。
「じゃあ、僕の部屋に行こうか?」
そう言って、健人は咲良を自分の部屋へと連れて行った。
健人の部屋は、マナトの写真やグッズに溢れていた。
「あ〜!このマナト、初めて見たぁ」
そう言って、咲良が、マナトのアクリルスタンドに触れると、
「おお!そうだよ、よくわかったね!最近買ったんだよ」
と、嬉しそうに健人が答えた。
アクリルスタンドもグッズも、両親が掃除ですら触れることを許さないのに、咲良が触れても壊しても、健人は咲良が興味を示してくれる事が嬉しくて、全て許していた。
アクリルスタンドを手にしながら、うつむいたままの咲良。
「…どうかしたか?」
健人が咲良に問い掛けた。
「あのね、あのね、なんで健ちゃんはパパじゃないの?」
と、下を向いたまま咲良が小さな声で問い掛けた。
「…え?」
健人が戸惑っていると、
「だってね、だってね、健ちゃんのお話を幼稚園のお友達に話すとね、『それって、パパじゃないの?』って言われるの。それにね、それにね、ママはね、健ちゃんが大好きだって言ってたの。健ちゃんはママの事好きじゃないの?」
と、咲良が早口で勢いよく話した。
「え?好き…って、家族として…、かな、きっとママは、さ…」
ひきつる顔を、一生懸命笑顔に変えながら答えると、
「分かんないけど、ばあばがママにね『健人くんの事、まだ好きなら話したら?』って言ってるの聞こえたの。健ちゃんはどうなの?好きなの?」
真顔で首をかしげる咲良の顔を見て、
「咲良はさ、僕がパパって、どうなの?」
健人が問いかけると、
「うんとね…、もっと、もっ〜と、遊んでくれるならパパになって〜」
と言ってニコニコと笑いながら健人に飛びつく咲良。
咲良を抱きしめて、
「じゃあ、ママに聞いてみようか?」
そう言って健人が微笑むと、咲良は満面の笑顔で頷いた。
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