夜中の電話

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◆  わたしとは対照的に、翔子はその日一日、彼氏とドライブデートをしていたそうだ。どこかに一泊する予定だったらしいけど、今となってはよくわからない。  高速を降りて、どこかのトンネルに差し掛かったとき、突然前方に何かが飛び出してきた。翔子いわくそれは人影で、女の人に見えた、らしい。  急ブレーキをかけたが間に合わず、飛び出してきた『何か』をまともにはねてしまった。人影らしきものはボンネットに乗り上げ、あっという間にフロントガラスを越えて車の後方に消えた。  車は耳障りなスキール音をトンネルいっぱいに響かせて止まった。翔子も彼氏もケガはなかったが、しばらくはショックで動けなかった。 「怖かったけど、でも、何かにぶつかったのは確かだから、確認しようと思ったの」  彼氏はハンドルに突っ伏してしまい、声をかけても返事をしない。翔子はスマホを片手に震えながら車を降りた。  トンネルのぼんやりしたオレンジの明かりの中、車の後方にゆっくりと歩いていった。  あのぶつかり方なら大怪我をしてるに違いない。道路に流れる血や、倒れている人のイメージが嫌でも頭に浮かんでくる。今にもその姿が見えそうになったとき――  突然低い大きな音がして、翔子は飛び上がった。車のエンジン音だった。まさかと思って振り返ると、車が急発進した。 「待って!」  翔子は叫び、慌てて追いかけたが、ヒールの高い靴を履いていたため転倒してしまった。その間に車は暗闇の中に消えていった。トンネルの中に翔子を残して。
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