夜中の電話

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 わたしは一応免許を持っているけれど、車を持っていない。持っていたところで、夜中の運転なんかできない。  そもそも翔子の支離滅裂な話ぶりでは、現在地すらわからなかった。高速を降りてトンネルに、ということは山の方だろうか?  翔子に現在地を聞くと、本人にもよくわかっていなかったが、××の近くだと言った。となるとやはり山の方になる……。 「いい? 迎えに行くのは無理よ」 「なんで」 「なんでって、わたし、車ないの知ってるでしょ。それにそんなところまで行けないよ」 「なんで、なんでよ、どうにかなるでしょ、来てよ、今すぐ来てッ!」  まるっきり癇癪を起こした子供のように、翔子は金属質な声で叫んだ。耳からスマホを離す。 「ねぇ、本当に落ち着いて? 今歩いてるって言ったよね。明かりはあるの? 車は通った? そんな状態で歩いてたら本当に危ないわよ!」 「車なんか通んないよ! 周りなんにもないの、真っ暗なの! でも、なんかさっきから変な音がするの、怖いの!」 「音? なんの?」 「わかんないよッ、だから早く迎えに来てって言ってんのに」  夜中の、人気のない夜道で翔子が窮地に立たされているのは分かっていた。  事故を起こした張本人である彼氏には置いてけぼりにされ、暗い夜道をひとりぼっちで、不安で仕方なかったのだろう。かわいそうだし気の毒だった。  それでも実際、わたしは迎えになんて行けないのだし、この窮地を脱するには翔子自身が行動しなければいけなかったのだ。ただわたしに「迎えに来て!」と喚くだけでは何もならない。わたしは深呼吸した。
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