夜中の電話

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「とにかく、わたしはそっちには行けないわ。わかるでしょ」 「そんなこといいから早く来てッ!」  堂々巡りだ。翔子の声は被害者意識に満ち満ちていた。 「だからわたしは行けないって言ってるでしょ……。とにかく救急車か警察か、他の誰かに連絡してちょうだい。スマホの充電は大丈夫なの? 充電がなくなったら目も当てられないよ。とりあえず電話切るから、そうして」 「だめよ、切らないで! なによ、あたしを見捨てるの? 最低」  それから翔子は散々わたしを罵倒した。  でも、わたしは別にそれが許せなかったわけじゃない。  元々翔子は少し情緒不安定なところがあって、今までだって八つ当たりされたことはあった。でも、友達だったからね。  ……あの子は、あまり社交的なタイプではなかったし、わたし以外にほとんど友達がいなかったみたいだった。彼氏ができたと聞いたときも、意外に思ったくらいだったもの。  だから多分、このときもわたしに助けを求めるしかなかったんだと思う。あの子は動転してた。パニックになってた。  わたし、心配してたのよ、本当に。だからこう言ったの。 「わかった。じゃあ、亘に電話してみる。亘なら車持ってるから……」  亘は当時付き合っていたわたしの彼氏。翔子にも紹介したことがあるし、三人で飲みに行ったこともあった。人見知りな翔子も、わたしの――友達の彼氏ということで気安かったのか、亘とはよく話していた。  亘はお人好しというか、気のいい人で、ともすれば少々偽善的なところがあった。わたしの友達が困っているとわかれば、協力してくれる可能性は高かった。今日は別の予定があったらしく、会えなかったけれど、もう家には帰っているだろう。  翔子はふっと黙りこんだ。 「翔子? どうしたの、大丈夫?」 「いいよ。そんなことしなくて。なんで、そういう話になるの」 「だって……まあいいや。とにかく、亘に車出してくれるか聞いてみるから。大丈夫だったら、亘と一緒に迎えに行く……」 「いいって言ってるでしょ! もういい、あんたなんか……それにどうせ来ないわよ!」 「じゃあどうすればいいのよ!」  とうとうわたしが怒鳴り返すと、翔子は金切り声をあげた。 「うるさい! 役立たず! だから来ないわよ! 逃げちゃったって言ったでしょ! もう、どうしたらいいの? わかんないよぅ!」
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