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だだっ子のような翔子の叫びを聞きながら、わたしは違和感を覚えた。
翔子の罵倒の声が、虫の羽音みたいに意味のない雑音になっていく。鼓膜も、スマホを握った手もじんじん痺れてきた。
一際大きな声で叫ばれて、我にかえった。
「――ねえ、聞いてんの!!」
反射的に言葉がこぼれた。
「翔子の彼氏って亘なの?」
「は……なに? え?」
祥子はピタッと黙りこんだ。荒い息づかいだけが聞こえた。さっき自分が何を口走ったか、気づいてない。
頭の中でわんわんと耳障りな音が止まない。
「切るわ」
「待って!」
「だって、わたしは行けないもの。亘に迎えに来てもらえばいいじゃない」
「違うの!」
「なにが違うのよ」
冷たく返すと、翔子は笑い混じりの声になった。いつもの、媚びるような薄笑いを浮かべた翔子の顔が容易に想像できる声だった。
「ねえ、そんなこと、今はどうでもいいでしょ? ね、助けてよ……。あたし、あなたしか頼る人いないの。わかってるでしょ……」
「知らない。彼氏に頼ればいいじゃない」
「っていうか! なんで今そんな話すんのよ! 関係ないでしょ!」
「じゃあね」
「だから待ってよ! ねえ、ほんとに、さっきから変な音がするの。ほんとヤバいんだって。お願いだから電話は切らないで! とにかく助けて、亘のことはあとで話そうよ。ね? お願い! お願いおねがいおねがいおねが」
わたしは通話を切った。
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