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「面白かったですねぇ、落語」
「ほんとだよねぇ。何の話が一番気に入った?」
「私は、お蕎麦のお話かなぁ」
「俺も〜。志乃ちゃんは?」
「えっと・・わ、私も、お蕎麦のお話が・・」
正直・・善次さんのことが気になって話の内容ほとんど覚えていない・・。
私達は寄席で落語を楽しんだあと、金森さんのお家の経営する『珈琲館』にやって来て、珈琲をご馳走様になっている。正直殿方と一緒に出かけるのは初めてだったし、こんなお店に入るのも初めてで、どうしたらいいのかよく分からない。何年か前に日本人の間でも流行り始めたこの黒い飲み物には、とても癖になる魅力があるのだと聞くが、如何なものかと洋風のカップを手に取り、口へと運んでみたのだが・・
────にっっが!!
思わず、喉を違えて咳き込んでしまった。
「志乃ちゃん、大丈夫? 苦かった?」
「す、すみません。失礼しました」
「何か別のものにする? サイダーとか」
「え? で、でもそれ、高価なものなんじゃ・・」
金森さんは「気にしないでー」と言って店の奥からサイダーと書かれた瓶を持って来てくれた。すごく感じのいい人だ。
「あ、あの、すみません。こんどお代、お支払いします」
「じゃあそのついでに次は、芝居小屋に付き合って貰おうかなー。今度は二人で行こうか?」
金森さんが満面の笑みでそう言ったそのとき、向こうで良子ちゃんが、善次さんにこう問いかけたのが聞こえた。
「善次さんはどなたか意中の人とか、いたりするんですかぁ?」
驚いて、口にしたサイダーをまた咳こんでしまった。
「志乃ちゃん大丈夫?」
「す、すみません、また、失礼を・・」
やめてよ良子ちゃん、そんな事聞くの・・
善次さんのそんなの、私は聞きたくなんかない────・・
「豊田志乃」
────驚いて。
思わず彼の方を見た。すると彼の青い瞳は、こちらへと向けられていて。
え・・?
今・・「豊田志乃」って・・
(えぇぇぇえ!?)
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