其の三: 初恋ノ君

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「面白かったですねぇ、落語」 「ほんとだよねぇ。何の話が一番気に入った?」 「私は、お蕎麦のお話かなぁ」 「俺も〜。志乃ちゃんは?」 「えっと・・わ、私も、お蕎麦のお話が・・」  正直・・善次さんのことが気になって話の内容ほとんど覚えていない・・。  私達は寄席で落語を楽しんだあと、金森さんのお家の経営する『珈琲館』にやって来て、珈琲をご馳走様になっている。正直殿方と一緒に出かけるのは初めてだったし、こんなお店に入るのも初めてで、どうしたらいいのかよく分からない。何年か前に日本人の間でも流行りの始めたこの黒い飲み物には、とても癖になる魅力があるのだと聞くが、如何なものかと洋風のカップを手に取り、口へと運んでみたのだが・・  ────にっっが!!  思わず、喉を違えて咳き込んでしまった。 「志乃ちゃん、大丈夫? 苦かった?」 「す、すみません。失礼しました」 「何か別のものにする? サイダーとか」 「え? で、でもそれ、高価なものなんじゃ・・」  金森さんは「気にしないでー」と言って店の奥からサイダーと書かれた瓶を持って来てくれた。すごく感じのいい人だ。 「あ、あの、すみません。こんどお代、お支払いします」 「じゃあそのついでに次は、芝居小屋に付き合って貰おうかなー。今度は二人で行こうか?」  金森さんが満面の笑みでそう言ったそのとき、向こうで良子ちゃんが、善次さんにこう問いかけたのが聞こえた。 「善次さんはどなたか意中の人とか、いたりするんですかぁ?」  驚いて、口にしたサイダーをまた咳こんでしまった。 「志乃ちゃん大丈夫?」 「す、すみません、また、失礼を・・」  やめてよ良子ちゃん、そんな事聞くの・・  善次さんのそんなの、私は聞きたくなんかない────・・ 「豊田志乃」  ────驚いて。  思わず彼の方を見た。すると彼の青い瞳は、こちらへと向けられていて。  え・・?  今・・「豊田志乃」って・・ (えぇぇぇえ!?)
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