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腕を引かれて・・
洋風の扉を開けると、カランと乾いた鐘の音が店内に鳴り響く。
「そこに飾ってある服を試してみたいんだが」
彼がそう言うと、店番の女性は満面の笑みで手を揉んで、木人形に着せられていたワンピースを取りにかかった。
彼に捕えられたままの手が、緊張で悲鳴をあげている。
なんで────善次さん・・
私は貴方に嫌われていたのではないの?
こんな事されると、勘違いしてしまいそうになる・・。
「まぁ〜! とっても良くお似合いでございますよぉ〜!」
「そ、そうでしょうか・・」
「ええ、ええ。きっとお連れ様もお喜びになられますわ! それでは、次はこちらをお試しください」
「え?」
試着室で彼女が突きつけてきたのはなんと、夜会用のバッスルドレス・・スカートの後方を腰布を使って膨らませた流行のドレスで、リボンやフリル、そして薔薇の刺繍や煌めくビーズのあしらわれた、それはそれは豪華な代物であった。当然ではあるが、街歩きの普段着で着用するようなものではない。
「こ、これは・・結構です。特に、必要ありませんので」
「ですが、お連れ様のご指定でございますよ? 採寸して身の丈に合わせるようにと」
「え?」
「さ。お手伝い差し上げますよ」
言われるがままに、夢のようにきらきらと輝く豪奢なドレスに、袖を通したけれど・・。
え?? なんで夜会用のドレスまで?
「そうですわね、少し胸と腰周りをお詰めすれば大丈夫そうですので、一週間もあればお直しできると思いますわ!」
本当に、なんで・・?
どうして私なんかに、ここまで良くしてくれるんですか? 善次さん────・・
試着を終えた後、上機嫌で普段着用のワンピースを畳み薄紙に包む店番の傍で、流石に私は善次さんの袖を引いた。
「あの・・夜会用のドレスの方は、遠慮させて頂きます。流石に着る機会がございませんので」
この厚遇の真意を測りかね、当惑していた私。だけど次の彼の言葉に、私は益々混乱させられることになる。
「お前にはそのうち夜会にも参加して貰おうと思ってる。・・俺の妻として」
────は?
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