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いつまでも塞ぎ込んでいる訳にはいかない────。
気づくと沈み込んでしまっている自分の心に活を入れる為、両の手で自分の頬をばちんと叩いた。
「一人で部屋に籠ってなどいるから、いつまでもぐちぐち考え事をしてしまうんだわ。こういう時は何も考えなくて済む様に、身体を動かすのが一番!」
だけど・・
"会いに行くわね、お姉様"
もしも・・もしも善次さんが・・綾の事を見初めてしまったら────・・
「はぅぁ!? だから考えちゃ駄目だって、さっき決めたばかりでしょう!? 私の馬鹿!」
使用人の制服へと着替え、雑巾や箒を手に掃除を進める使用人の女性達へと近づき声をかける。使用人達は善次さんが仕事に出た後ここへやって来て、大抵の場合は彼が仕事から戻ってくる前には帰ってしまっている。善次さんは昔から誰かと連む姿はあまり見られず、一人で本を読んだりしていた事を考えると、多分人付き合いが煩わしくて、わざとそうしているのだろう。だから夜はしんと静まり返っているこの屋敷も、昼間は割と賑やかなのだ。
「あの、私にもお掃除のお手伝いをさせて下さい。何処をやったらよろしいですか?」
しかし彼女達は困ったように顔を見合わせ合った。
「え・・ですが・・ねぇ」
「え、ええ・・。有難いお申し出ですが、どうぞお部屋でお寛ぎ頂ければと・・」
「? もしかして、もう一通り終わってしまったのですか?」
「いえ・・ですが、旦那様のご婚約者様に、まさかその様な・・」
ん?
「え? 今、なんと・・?」
「ですから、旦那様のご婚約者様に下働きの手伝いをさせたとあっては、後でお叱りを受けるのではないかと・・」
・・え? ご、ご婚約者様・・?
ど、どうしてそんな話になってるのかしら・・??
困惑した私は、光太郎さんに噂の元について相談したのだけれど、彼はけろりとした表情でこう答えた。
「ええ、私が使用人たちにそう伝えましたよ。志乃様は使用人にさせるのではなく、娶る為に連れて来たと、善次様からお聞きしておりますので」
娶・・???
「えぇぇぇええ!? 善次さんが自分でそう言ったんですか!?」
「ええ、まあ」
な・・なななななんで、どどどうしてそんな事を・・?? どういう意味なんですってば善次さん!?
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