656人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
席には続く『合鴨のロースト・オレンジソース掛け』が運ばれてきた。
「オレンジって・・あの蜜柑に良く似た果物ですよね。お肉のお料理に、果物を使うんだ」
「食べてみろ。意外と美味いぞ」
私の様に慣れない者も多く来るのだろう。皿の上の鴨肉は既に切り分けられていて、ナイフとフォークを使わずとも、お箸で取れるようになっていた。下に敷かれた淡い橙色のたれが『オレンジソース』なのだろう。口へ運ぶと、確かに柑橘類の酸味と甘味が口に広がったが、鴨のくどい様な脂と合わさると、不思議と相性が良くて感心してしまう。
「着て来なかったのか、洋服」
「え?」
「欲しかったんじゃないのか」
私は皿から視線を外して、彼を見つめた。彼はナイフとフォークを手に、皿へと視線を落としたままだったけど。
箪笥の中に仕舞ったままの、あの水玉模様のワンピース。
貴方は知らないでしょう。
あの洋服はただの洋服じゃないの。
貴方が私の物欲しげな視線に気づいてくれた・・貴方の『気遣い』そのものなの。
他の人にはただの洋服でも、私にとっては宝物。
「・・勿体なかったもので・・」
切ない想いで、私は彼に苦笑いを向けた。
だけど彼はこう言った。
「次は着てこい」
彼の手にしたフォークが、馴染んだ様子で料理を彼の口へと運ぶ。
「駄目になったら、また買ってやるから」
────善次さん・・
貴方は知らないでしょう。
私はもうずっと前から、貴方に『恋』をしているの。
好きなの。
どんなに傷付けられても
その一言で天にも舞い上がってしまうくらいに
泣き出してしまいそうになるくらいに
あの頃からずっと、どうしようもない程に、貴方に恋焦がれている────。
「はい。分かりました、善次さん」
貴方にとっては洋服の代金など取るに足らない端金。全てがただの気紛れなのかもしれないけれど。
私にとってその言葉は、一生の思い出になるんですよ。善次さん・・
============
瑠璃さん!スターギフトありがとうございます🙇♀️
最初のコメントを投稿しよう!