異界の扉

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 勤め先のショッピングモール。そこの三階の、一番右端にある非常用の扉。  火災の時に上からシャッターが下りてきてフロアを分断し、その扉をくぐって逃げるタイプのものなのだが、前、点検のためにそれを開けたら、その先に見知らぬ世界が広がっていた。  ただならぬ気配がしたのですぐに閉めたが、あれは間違いなく、この世界とは別の空間だった。  SF漫画などで目にする異界と呼ばれる場所。あの非常用扉はその世界と繋がっている。  幸いにも、向こうからは干渉できないらしく、勝手に開いたことは一度もない。だから普段は南京錠をかけ、子供などがイタズラで開けたりしないよう管理している。  でも今日、ついに『その時』が来てしまった。  店内で火災が発生し、それに反応して非常用扉脇のシャッターが下りたのだ。  いつしか謎の繋がりがなくなり、ただの扉に戻っていてくれたら…その思いも虚しく、おそるおそる開けた扉の向こうには、以前見たままの異世界が広がっていた。  予想以上に火の手は強く、逃げなければ焼け死んでしまう。だが、この扉の先に平和な世界が存在しているようには見えない。  進んでも地獄。留まっても地獄の究極の二択。それでも焼け死ぬよりはマシと、俺は、扉の向こうの異世界に一歩を踏み入れた。 異界の扉…完
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