黒魔術師がマイクロプラスチックの黒い怪物を倒す

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 扱いに慣れた竜太が絨毯の両端を掴んでコントロールしていた。あぐら座りをしている。 「それでじやあ。亜香里ちゃんは、なぜ白魔術は使わないのか?」  ちゃんじゃないし、その質問を、いつもするなと言いたい亜香里。 「要らないから。良い人ぶった人の嘘を暴くのが楽しみだよ」 「思念で術をかけるのだろ。どうして」 「もう、帰る。何回も聞いてくるし」  背中を蹴りたいぐらいだ。体育座りしたアカネの膝が竜太の背中へくっつきそうなほど近い。  一畳の広さの絨毯が肩ぐらいまで包むような状態。本来は一人用の空飛ぶ絨毯だから窮屈だ。 「わかったごめん、ただなー。今度のは厄介なんだ」  やはり生物相手では効果がないと竜太も考えているのか。詳しく怪物の正体を知りたい。 「アメーバか。うん、分裂する。させることはできるはず」 「それより、黒魔術でどこまでいけるのか心配だ」 「分子まで破壊できるのは上級者。私は初心者だよ。切り刻む感じかな」 「そうじゃなくて」  竜太が振り返るというより、身体を捻り亜香里の正面へ向いた。膝小僧に触れるぐらい顔を近づけている。 「なにが、心配なの。さ」  見つめられて、亜香里は鼓動が早くなる。一歳は年上らしいけれど、会話が不器用だ。それは、何かしてあげなくちゃ、と思わせる部分もあった。 (恋はしょうもない迷いごとだけど。なによこの人は)  相棒として仕事をするにはいい。空飛ぶ絨毯で狭い場所へ乗せるなど、好意を持ってしまっているのにも気づいていた。 「だからさ。黒魔術は恨みだろ」  竜太は言葉を選びながら喋る。 「つらい過去は誰にでもある」 「わからないよ。他人には」  つい大声になるけれど、隆太の作戦だと気づいた。なにか分かったように笑っている。わざと挑発したのだろう。 「話して。相棒だろ」 「仕事でしょ。でも、いいか」  高校生の頃にむりやり髪を切られたのだ。学校側もクラスメートも、それを苛めとして認識していたらしい。それで難しい顔をして済ませたのだ。犯罪でしょ、と言いたい。 「苛めといえば、解決したような顔をして。良い人ぶるのが人間さ」 「犯罪だよなー。ま、理想的な対応を期待しないほうがいい人もいる」 「黒魔術を使えば心の闇が見えて来る。それを暴いて見せる。世間への復讐だね」 「黒魔術は自分に跳ね返ってくるそうだがなー。大丈夫か。それが心配なんだ」 「かってにしとけって」  亜香里は自分の心配をしてくれる竜太へ素直になれず、そっぽを向いた。
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