黒魔術師がマイクロプラスチックの黒い怪物を倒す

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 喪服はいつでも気分を滅入らせる。 「この方が、幹事の佐藤さんです」  竜太に紹介されて、見ると、沈痛な表情の男性で、左腕に包帯がされて曲げる。あの騒ぎで怪我をしたのだろう。 「このたびは……」  お詫びも述べるが、佐藤は、気にしないでと、掌を横に振って、見せる。 「怪物が暴れ続けていたら、私もあそこの人ですよ」  祭壇へ顔を向けて言う。 「宇宙のМなんとかから、宇宙人が助けにくるわけもないし。魔女さんが本当にいてくれたお陰様で助かりました」 「いえ。未熟者です。お怪我は大丈夫?」 「入院してる方もおりますからなー。いや。責めてるわけじゃなくて」 「そうですか」  何か文句も言いたいのだろうと、亜香里は思う。  それを察したのか竜太が口を挟む。 「幹事とは。また何か始めるおつもりでしょう」 「結局はプラスチックの不法投棄が悪いのです。微力ながら環境について取り組みたい。一周忌には、成果を報告できれば供養になると」 「そうか。そうだよね。袋に詰めてる方々もいたし」  亜香里は対応が早いとも感じていた。いちはやく行動できる団体があったのだろう。それの代表が佐藤らしい。幹事といっていいのか分からないけれど、親睦会みたいなものから始めたようだ。  帰り道。竜太はお節介にも説明する。それは亜香里が朧気に感じることへの解答だ。 「恨みはあるさ。それをプラスチックにした。ま、切ってまき散らしたのに、ひとこと言いたいだろうけど」 「言ってくれてもいいのに、すっきりする」  亜香里は裏表がある人間が嫌いだった。髪を切った同級生は良い子を演じていたし、先生たちへ受けもいい。先生たちも、おおごとにさせたくないから、苛めといえば難しい問題として、うやむやにしていた。 「心が軽くなるから許すのさ」 「えっ、そう」  亜香里は考えたことがなかった。 「恨みや憎しみが続くのは、繰り返すから。過ぎ去れば心が重くなるだけ。相手を許すか無視するか。そうじゃなければ生きていけないさ」 「うん。そうだよねー。あの女は無視して会わない。そのかわり、世間の裏を暴いてやるのさ」 「浮気だったか。あれは、助かった人が多いだろ。なにをしてるのかな亜香里ちゃん」 「ちゃん、じゃない」  それでも、自己矛盾に気付く。困らせるつもりが、結局は人助けだ。 「裏表があり、弱いのが人間さ。亜香里も自分の弱さに気付いただろ」  呼び捨てか、と毒づきたいが、柔らかい響きの声に頷いてしまう。 「ネットの情報の惑わされたり、忘れてもいた苛め以上のことを、なぜか黒魔術の拠り所にしていた。だから魔法のパワーが足りないんだ」  怨念とも呼ぶべきものが黒魔術を完成させる。そして反動は致命的だ。いまは流れで世間の暗闇を暴いていた。 「慈しみさ。弱いのを労われ。まず自分を労わって、亜香里ぃー」 「へんな呼びかたするなって」  それでも、分かった。赦すこと。上から目線みたいだけれど、慈しみで見守るのは、愛だと感じた。
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