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亜香里が白魔術を習得しないうちに、また、黒い怪物が現れた。
「あの。真っ黒ですけど」
見渡す限り、水平線まで広がるマイクロプラスチックの平原。仮足が陸地で、うねうねと物色していた。
「あれだな。小屋みたいな黒い塊。やっつけちゃえ」
竜太が燥ぐ。おいおいおい、遊びじゃない、と言いたいけれど、男性はいつも少年気分で冒険を楽しむのかもしれない。
「マジックアタック・ストロング・リ・サイクル」
両手で思念を送る。分裂した怪物だけれど、海ではすぐに元通りに繋がった。
がしゃっがしゃ、ぶつかる音。小屋みたいな黒い塊が膨らみ、仮足を蛸の足みたいに伸ばして振り回す。
「危ない!」
竜太が叫ぶと亜香里を押し倒した。仮足が頭上を通り過ぎる。どこから飛んできたのか、すくなくとも、絨毯を敵とみなしたらしい。
「距離を置こう」
亜香里はいったん離れようと考えた。
「手ごわいな。白魔術でいけるか」
「そうだね。でも、パワーが足りない」
人類をまもるとか、正義とかいわれても抽象的で身体が魔法のオーラをまとわない。
白魔術のやりかたは知っている。亜香里の呼んだ魔法本では、黒魔術と表裏一体だ。ボジティブな思念を発動すればいい。
「まだか。まもらなければ。何を? この星を。いや。身近に、この町」
佐藤たちの願いを思いだすけれど、黒魔術の恨みのように沸き上がる情念が足りない。
どすっ。絨毯が突き上げられる。仮足が下から襲ったらしい。身体が浮くのを絨毯の端を掴んで止めた。
「あわわっ」
竜太が叫びながら、仮足に巻き取られた。
「りゅうたあー」
手を伸ばすけれど、届かない。
「迷ってるときじゃなかったんだよね」
立ち上がる亜香里。なぜかパワーがみなぎってくる。
「愛の思念はむつかしくなかったかもしれない」
両手を合わせて伸ばす。
「素直になれば良いのよ。白魔術発動」
掌を広げて怪物へ向けた。竜太を助けたい。
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