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「マジックアタック・ストロング・リ・フレッシュ」
呪文を唱えると、白い煙を巻き上げ伸びる赤い光。
「冷たいっ」
指が痛いほどに冷気に当たる。温度の変化で起きた白い煙だった。赤い光が黒い怪物へ吸い込まれると、しゅう、と急激に冷却される音。
なぜ低温攻撃か分からないけれど、怪物の仮足が動きを止めた。先のほうから白く変わってゆき、崩れてゆく。
「危ない、落ちる」
竜太を絡めた部分も石化して崩れそうだ。亜香里は魔法の杖を取り出して振る。
「フィッシュキャッチングネット」
縄上の網が伸びる。 ぐわーっ、口を開くように広がる網。
ぼろぼろ崩れる怪物。
竜太の手が滑り落ちる。
ネットの中へ転がった。
「遠心力パワー」
亜香里は杖を回す。ネットが孤を描きまわり、絨毯へ落ちて来る。どっすんっ。派手な音で落ちた竜太。へこむ絨毯。
「大丈夫」
声を掛ける亜香里。目を固く閉じている竜太。落下中と思っているのだろう。網を解除して心臓を確かめると、かなり強く早く動いていた。「絨毯に着いたよ」 亜香里は竜太の手を握りながら言う。
「ひゃっ、天国か極楽か」
気づいたらしい竜太。
「しんでないから、落ち着いて」
「たすかったー」
やっと理解したらしい。
「だけど、芝居臭いね。どこから気づいてたの」
「いや。手を握られて、亜香里が来たと気づいた」
「なにが極楽なわけ」
「いや、ごめんなさい」
「そんなギャグ、今の時代は通じないよ」
一つ上なのに、ちょっと昭和の香りがする男性だ。ともあれ、竜太が極楽と思っている状況は変えたい。
・
並んで座り、下界を眺める。黒い怪物は灰色に変わり、無数の仮足が、葉っぱを落とした低木のように広がる。
「プラスチックは海へ戻るのか。あの怪物は上手く回収してくれたんだが」
竜太は、海がきれいになったと評価しているらしい。
「固めれば良いのよ。うん。できるかも知れない」
亜香里は魔法の杖を手に取り立ち上がる。
「さすが、白魔術。でも無理するなよ」
「液状にすれば、一個の物体になる。それを結晶化できるみたい」
そういう科学的なことを簡単にやれるのが魔法だろう。
「そうだ」
竜太が何か言うことを思いだしたように立ち上がる。
「生き物へ効力があるはずだ、白魔術は」
「なぜ?」
「黒いアメーバが居なくなった。凍死したんだよ」
それで、最初は冷やしたわけだ。つぎは熱くしてプラスチックを溶けさせる。いよいよ最後の仕上げに入る亜香里。
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