黒魔術師がマイクロプラスチックの黒い怪物を倒す

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「マジックアタック・ストロング・リ・フレッシュ」  呪文を唱えると、白い煙を巻き上げ伸びる赤い光。 「冷たいっ」  指が痛いほどに冷気に当たる。温度の変化で起きた白い煙だった。赤い光が黒い怪物へ吸い込まれると、しゅう、と急激に冷却される音。  なぜ低温攻撃か分からないけれど、怪物の仮足が動きを止めた。先のほうから白く変わってゆき、崩れてゆく。 「危ない、落ちる」  竜太を絡めた部分も石化して崩れそうだ。亜香里は魔法の杖を取り出して振る。 「フィッシュキャッチングネット」  縄上の網が伸びる。 ぐわーっ、口を開くように広がる網。  ぼろぼろ崩れる怪物。   竜太の手が滑り落ちる。  ネットの中へ転がった。 「遠心力パワー」  亜香里は杖を回す。ネットが孤を描きまわり、絨毯へ落ちて来る。どっすんっ。派手な音で落ちた竜太。へこむ絨毯。 「大丈夫」  声を掛ける亜香里。目を固く閉じている竜太。落下中と思っているのだろう。網を解除して心臓を確かめると、かなり強く早く動いていた。「絨毯に着いたよ」 亜香里は竜太の手を握りながら言う。 「ひゃっ、天国か極楽か」  気づいたらしい竜太。 「しんでないから、落ち着いて」 「たすかったー」  やっと理解したらしい。 「だけど、芝居臭いね。どこから気づいてたの」 「いや。手を握られて、亜香里が来たと気づいた」 「なにが極楽なわけ」 「いや、ごめんなさい」 「そんなギャグ、今の時代は通じないよ」  一つ上なのに、ちょっと昭和の香りがする男性だ。ともあれ、竜太が極楽と思っている状況は変えたい。     ・  並んで座り、下界を眺める。黒い怪物は灰色に変わり、無数の仮足が、葉っぱを落とした低木のように広がる。 「プラスチックは海へ戻るのか。あの怪物は上手く回収してくれたんだが」  竜太は、海がきれいになったと評価しているらしい。 「固めれば良いのよ。うん。できるかも知れない」  亜香里は魔法の杖を手に取り立ち上がる。 「さすが、白魔術。でも無理するなよ」 「液状にすれば、一個の物体になる。それを結晶化できるみたい」  そういう科学的なことを簡単にやれるのが魔法だろう。 「そうだ」  竜太が何か言うことを思いだしたように立ち上がる。 「生き物へ効力があるはずだ、白魔術は」 「なぜ?」 「黒いアメーバが居なくなった。凍死したんだよ」  それで、最初は冷やしたわけだ。つぎは熱くしてプラスチックを溶けさせる。いよいよ最後の仕上げに入る亜香里。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加