死神の役割

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蒼はリビングに常設された介護ベッドの傍に立った。 そこにはいつものように祖父が横たわっている。 なんとなく伸びている髭が白い。 ふと、紺次郎と目が合った。 灰色の白濁した瞳が優しい。 「じいちゃん・・・苦しいの?」 いつからだろう置物のように思えていた祖父を見下ろす。 「いや・・苦しくない・・」 視界に映る祖父とその周りには血の跡が無機質に点在している。 死神が時計を見た。 時間が近づいてきたのかもしれない。 と、蒼の一部が開かれた感覚がした。 拒否しないと『見送り』が始まるのかもしれない。 紺次郎のこけた頬が死を思わせる。 「じいちゃんは後悔したことある?」 「ない」 蒼の中に何かが流れ込み始めている。 なぜか、蒼は拒否をせずにいた。 好奇心なのか・本能なのか・・ これといって嫌悪感もなかった。 次の瞬間、堰を切ったように圧倒的な勢いが 無防備な蒼の胸に傾れ込み支配していった。 「痛ってーーーーっ!!」 なんだこの痛みは、肺が焼けるようだ。 息をしようものなら雑巾のように脊髄から絞り上げられる。 痛みに焼かれて身悶えしているというのに追い打ちをかけるように 感情の根幹を揺るがす大きな苦しみが漆黒の闇となって襲い来る。 これが見送り・・ いつの頃からか、当たり前のように 日差しの暖かな特等席を陣取り 朝となく昼となくただそこに横たわっていた。 じいちゃんはこんなにも苦しんでいたのか・・ 涙を拭う余裕もないまま紺次郎を見る・・ と・・なんて・・なんて・・・ 幸せそうな顔 全ての苦しみから解放された軽やかさが 紺次郎の表情を明るく色付けている。 紺次郎はじっと蒼を見つめると 2度と開かない瞼を閉じた。 と、言っても無事 生前の肉体から剥離した紺次郎は すぐそこで死神と談笑している。 見送りが送って、死神が迎えると 肉体からの剥離がうまくいくらしい。 この日から 蒼も死神の役割を担うことになったのだった。
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