ダークチョコティント

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ダークチョコティント

「今日も世界はつまんねぇな」  市立高校の屋上。僕は持ち込んだパラソルの下で寝転がっていた。  太陽の動きに合わせてたまにパラソルの位置を変える。  だって、日焼けなんかしたくないし。 日焼けしたら肌が痛むし、何よりこの自慢の色白の肌がくすむ未来なんて見たくない。  ――そんな先まで僕が生きてるかなんて、分かんないけど。 「退屈すぎ。帰りてぇ」  でも次の数学は出ないといけない。先日の試験で赤点をとってしまったのと、出席日数がギリギリだと担当教師に釘を刺されたばかりだったから。 「いっそ中退するか?」  中退する度胸もないくせに、僕はそんなことをつぶやく。 「なんか、刺激ないかな」  ゆっくりと上体を起こすと、そばに置いてあるスクールカバンを引き寄せた。  中からスマホを取り出す。メッセージの通知がいくつか入っていた。 〈アイ、今どこ?〉 〈アイちゃんー、またサボり?〉 〈アイちゃん、放課後あそぼー〉  などなど……みんな別々の奴らから。こいつらも大概だなあなんて心の中で悪態をつく。 「そろそろ作りますかー、仮面」  僕はカバンから汗ふきシートと大きな化粧ポーチを取り出す。  慣れた手つきで外向きの顔を作って、最後にティントをスッと引く。 「よし、できた!」  レジャーシートから立ち上がってパラソルを閉じると、僕はゆっくり屋上を出た。カギを閉めてポケットにしまうと、パラソルとカバンを持った僕は、テンポよく階段を降りていく。
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