ダークチョコティント

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「どうぞ。一緒にごはん、食べよ?」 「……はあ」  根負けした千代子先輩はドスンとレジャーシートに座った。 「お弁当、あげないわよ」 「僕のあげるからちょうだいよ」 「……何を持って来たの?」 「これ!」  僕はそう言って小さな紙袋を取り出した。 〈パティスリーシュクル〉の紙袋。 「……こ、これっ!」 「今朝、買ってきたんだぁ」 「学校は?」 「午前中はサボった。あ、ウソウソ。四限目は出たよ、うん」  千代子先輩は目を見開いて僕を見ている。 「ねえ、塩川くん」 「アイちゃん」 「塩川く――」 「アイちゃん」 「塩か――」 「アイちゃん! アイちゃんって呼ばなきゃ返事しないよ?」 「……アイちゃん。あなた、校則とかルールって守らない人なの?」 「ルールは守るよ? だからほら、開店時間中にこのお菓子は買ったわけで」  千代子先輩はあきれたように自分のお弁当を食べはじめる。 「ちゃんとおばさんに聞いたんだ。千代子さんが作ったのはどれですか? って」 「え!」 「このチョコ味のフィナンシェとか、千代子先輩の手作りって聞いたよ。だからかなあ、めっちゃおいしそう!」 「……おいしくないわよ」  僕は千代子先輩のつぶやきを無視して、フィナンシェの封を開けてひと口かじった。 「……うまっ」  思わず素の声が出た。それぐらいおいしい。  しっとりのフィナンシェ。甘すぎないチョコの味がふわっと口の中に広がる。 「え、これ本当に千代子先輩が作ったの? 本当に?」 「ウソついてどうするの。……焼き菓子は私が作ることが多いの」 「今度、焼き菓子ぜんぶ買い占めるわ」 「それはやめて……ほかの人が買えなくなるから」  千代子先輩は困惑気味に言うが、それでも僕がおいしいおいしい言っているとうれしそうに笑った。
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