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「でも、なんで昨日は囲まれてたんですか?」
千代子先輩は「ああ……」と憂鬱そうにうなずいた。
「私がお菓子屋の娘だし、作ってるならタダで学校に持って来い……って言われたの」
僕はとたんに憤慨した。
「はあ? ただでさえ安く売ってるのに買わないでタダでって? ふざけんなだし。高校生なら自分の小遣いでちゃんと買えっての!」
すると千代子先輩が「本当? キミは本当にそう思うの?」と尋ねた。僕は大きく「はい、そう思います!」とうなずいた。
「……うれしい、そう言ってくれて。ありがとう」
千代子先輩は笑顔でそう言った。
その笑顔が、とても自然で、かわいかった。
「……また明日も買いに行きます」
「また午前中の授業をサボるつもり?」
彼女の笑顔がとたんに消えてしまった。千代子先輩は不安げに言う。
僕は「そうですけど」と普通に答えるものだから、千代子先輩は「ダメだよ」となだめるように言った。
「学校をサボってまで買いに行こうとしてくれるのはうれしいけど、ちゃんと出席しなきゃ」
「なんで?」
「だって、そう決めたんでしょ? 高校に通うって決めたのなら、通わなきゃ」
「そんな理由で? なら中退しよっかな。ずっと考えてたし」
僕がパラソル越しに空を見上げると、今まで誰にもこぼしたことがなかった本音をつぶやいた。
「なんでそう考えるの? 塩川くん……えっと、アイちゃんは、友だちもたくさんいて、人気もあって、学校生活楽しそうなのに」
「千代子先輩は学校生活、楽しいの?」
「……あんまり楽しくはないかな。だからアイちゃんがうらやましいの」
僕は千代子先輩の横顔をジッと眺める。小さな口でミートボールをパクッと食べる。そしてモグモグ……。
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