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「千代子先輩は僕に高校やめてほしくない?」
「え?」
「どう? やめても良いと思う?」
千代子先輩は困ったように笑うと「イヤかな」と答えた。
「イヤ?」
「イヤ」
「じゃあ、中退するのやめます」
「そう、よかった」
「その代わり、千代子先輩」
「うん?」
僕は千代子先輩の向かいに座って姿勢を正した。
「千代子先輩。毎日、僕にお菓子をください。もちろんお金は払います」
「え……?」
「そして、僕に千代子先輩を改造させてください」
「はい……?」
「千代子先輩をかわいくさせます! そして学校生活を楽しくさせてみせます」
千代子先輩は目をグルグルさせて「キ、キミは、な、な、な、なにを言ってるの?」と混乱している。その隙に千代子先輩のお弁当入れに置かれているスマホを手に取ると、僕のスマホと連絡先を交換した。
「僕が呼び出したら、急用がない限り応えてくださいね? その代わり、千代子先輩が僕を呼んでくれたらゼッタイに駆けつけますから」
「ちょっと、アイちゃん?」
「あと、千代子先輩は僕のことをアイちゃんじゃなくてアイくん、って呼ぶこと。良いですね?」
「えっと、はい……アイくん」
「そう、その調子です」
僕は千代子先輩の頭を優しくなでた。
「千代子先輩をかわいく改造するので、覚悟してくださいね」
千代子先輩は「大変なことになった……」とスマホを胸に抱いてブツブツつぶやいている。
「とりあえず、午後の授業はサボりますか」
「え? いやいや、ダメだよ」
「冗談ですよ」
僕は隙を付いて千代子先輩のお弁当箱から卵焼きをつまんだ。
「おいしい」
「そう? 実はお弁当も自作……ありがとう」
千代子先輩ははにかむ。
僕は千代子先輩の笑顔を一人占めしたかった、と気づくのはもっと先の話。
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