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放課後。体育館裏の準備室から出てきた僕は、笑顔でスキップしていた。
夏休み明けから一切出席していなかった。理由は〈水泳〉だったから。
この高校のプールは屋外プール。しかも水の入れ替えはそんなにひんぱんじゃないのを知っている。そんな汚い水に入るのも嫌だし、化粧は落ちるし、日焼けもしたくないからサボり続けていた。
でも体育教師の一人にかわいがられていた僕は〈レポートの提出〉で残りの授業も免れることになった。これをラッキーと言わずになんと言おう。
「あ? だれだろ」
スマホがポケットで震えた。電話らしい。だれだろう――ああ、クラスメートの男子だ。
「なにー?」
〈アイ? 今、どこにいると思う?〉
電話越しにガンガン音楽が鳴っている。ゲーセンかカラオケだろう。そしてこう言うときは「ハズす」のが良い。
「うーん、ファミレス?」
〈ブッブー、カラオケでしたー〉
合わせたようにゲラゲラ笑い声が聞こえる。うるせぇな、と思いつつ「どうした?」とたずねる。
〈アイもこれから来ねぇ? 呼び出し終わったころだろ?〉
そうだ、放課後すぐにこいつに誘われたのを「体育のせんせに呼ばれてる」と言って断ったんだった。というか、断ったんだから二度も誘うな、バカ。
「これからお姉ちゃんとデートなんだー」
僕はいつもの〈ウソ〉をつく。でもたいていはこう言うとみなあきらめてくれる。
なぜなら僕の姉は有名なモデルだから。そんなモデルの姉を差し置いて遊ぼうと思うやつはいない。
〈そっかー、ざんねん。じゃ、またな!〉
「うん! また誘ってね」
僕は電話を切ると、小さくため息をついて歩きだした。
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