ダークチョコティント

7/13
前へ
/13ページ
次へ
〈パティスリーシュクル〉と書かれていた。 「……えっと、それが何か?」  僕は真面目に返答してしまった。それぐらい呆気にとられていたんだ。 するとその子も目を丸くした。 「ウチのお菓子が目当てじゃないんですか?」 「君の家は、お菓子屋さんなの?」 「知らない……? うちの店も?」 「甘いものは肌に良くないから、あんまり食べないんだよね。だから、お店とかも詳しく知らないんだよね」  その子は困ったような顔をして立ち上がると、突然頭を下げた。 「私、二年六組の佐藤千代子って言います。助けてくれてありがとうございました」  僕はつられて答えた。 「僕は一年二組の塩川アイって言います」  千代子先輩は「塩川……アイ……」とつぶやくと「ああ、あの」とうなずいた。 「天使のアイちゃんって、あなたなんですね。ずいぶん背が高いですけど」  彼女は真顔でそう言った。その真顔があまりにも僕のツボで、思わず笑ってしまった。 「くっくっく……あはっははは、あはは」  お腹を抱えて笑ってしまう。こんなに頭が真っ白になるほどおもしろいと思ったのはいつぶりだろう。 「そんなに笑います?」  千代子先輩は困ったように眉尻を下げている。その顔も僕のツボだった。 「千代子先輩って、かわいいですね」 「かっ……」  今度は顔が真っ赤になる。僕のお腹は笑いすぎて痛くてしょうがない。 思わずしゃがんでしまう。それでも笑いは止まらない。 「あの、失礼だと思いますが!」 「ご、ごめん……でも、本当だよ」  僕は目尻に浮かんだ涙を拭って、立っている千代子先輩を見上げた。  そして天使のアイちゃんスマイルで言った。 「千代子先輩、かわいいですね」  真っ赤になった千代子先輩はカバンを拾って歩きだしてしまった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加