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「あ、待ってよ」
僕はすぐに追いついた。
「ちょ、ちょっと! 着いてこないでください!」
「お茶しない? すぐそこにファミレスがあるから。おごるよ?」
「年下におごられるのはお断りです」
「でも男子だし?」
「そもそもあなたとは出会ったばかりなんです。出会ったばかりでおごられるのは嫌です」
「じゃあ、どうしたら良い?」
赤信号に捕まって立ち止まる千代子先輩。
僕もようやく千代子先輩の横に並べた。
「そもそも、あなたと話すことはないです」
「僕は話したいことだらけだよ?」
「勝手に話してれば良いじゃないですか」
「え? じゃあ付き合ってくれるってこと?」
「付き合いません。私はこれからお仕事なんです」
「バイト? なんのバイト?」
千代子先輩は大きく「はあ」とため息をつくと、僕にさっきみせた紙袋を押し付けた。中身は空だった。
「私の実家はお菓子屋です。放課後はそこでお菓子を作っているんです。なのであなたと話しているような時間はないんです」
青信号に変わったとたん、千代子先輩はまた歩きだした。僕はなお、着いていく。
「ちょっと、ストーカーですか!」
「千代子先輩の作ったお菓子が食べられるんでしょ? 一緒に行く!」
「来ないでください!」
「やーだーね。もう決めたもん」
「もん! じゃないです!」
「店の住所からしたらもうすぐでしょ? 一緒に行っても良いじゃん?」
僕はスマホを千代子先輩にみせる。紙袋の店名からさっそくスマホで調べたところだった。
「たしかに近くですが、今はもう閉まってます。買えませんよ」
「じゃあ、これから作ってよ。待ってるから」
「ダメです!」
千代子先輩と押し問答している間に、路地に入り小さなお菓子屋にたどり着いた。
〈パティスリーシュクル〉
「ここかあ。おいしそうな匂いがするね」
「そもそもあなたは甘いものを食べないんでしょう?」
「食べないだけで、キライじゃないよ?」
「とにかく。店の開店時間は午前九時から午後二時まで。どうしても食べたかったらこの時間に来てください」
千代子先輩はそう言って店の奥の従業員入り口に入っていってしまった。
「……あ、連絡先聞くの忘れちゃった」
僕はちぇっ、と舌打ちをしながらも、おとなしくもと来た道を帰っていった。
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