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翌日の昼休み。
僕はクラスメートの誘いを断って二年六組の教室に来た。
「こんにちは! 千代子先輩、いますかー?」
教室中がざわついていたのに、僕の登場でシンと静まり返った。
いや、僕の登場が、というよりも、僕が千代子先輩を呼んだことの方が注目を集める原因になったようだった。
千代子先輩は教室の一番後ろの窓際すみの席に座っていた。目を見開いて、わずかにおさげが震えている。
「あ、千代子先輩、いたー!」
僕は教室の空気を無視して、千代子先輩の席まで近づく。
「わあ、おいしそうなお弁当! 僕も一緒に食べていいですか?」
「な、なんで……」
「え? ダメ? じゃあ食堂にでも行きます?」
「そ、そうじゃ……」
千代子先輩の目は僕とクラスメートとを行ったり来たりしている。
(ふうん。千代子先輩、教室に馴染めてなさそうだな)
僕は千代子先輩の弁当を勝手にしまうと、彼女のうでを引いて歩きだした。
「ちょっと、キミ」
「キミ、じゃないです。アイちゃんですー」
「塩川くん……」
「ちがいますー、アイちゃんですー」
僕の手が掴んでいる千代子先輩のうではとても細かった。
足もまだ教室から出たくなさそうにしている。けれど僕は引っ張った。
「ほら、行こう?」
僕は食堂に向かう渡り廊下を歩きだした。
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